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「Wing」
【ファンタジー その他小説】

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「Wing」-33

 ……そうだ……もう一つ方法があった……
「……クレア。飛べるのが羨ましいって言ってたよな……?」
「うん……」
キョトンとした顔で答える。
「……飛ぼう」
「え?」
「一緒に……」
 言った後で解放する。あの俺を。
「……行くぞ……しっかり掴まってろ」
行こうとした瞬間、後方から、
「お〜〜い」
またもやマヌケな声が聞こえてきた。
「……死んでないのか」
「勝手に殺すな! ってお前それ……」
 一応こんなやつでも助けた方がいいよな……
「あんたも行くだろ……?」
「……何処に?」
 少し怯えた様子で聞き返してくる。



 二人を連れて敵の包囲網を越え、今は敵陣の遥か後方に居る。ここでいいか……
「このまま真っ直ぐ進んだら皆に追い付くはずだ……じゃあな……」
「レオンは行かないの?」
「俺は此処でアイツ等を押さえておく」
言って再び剣を構える。

「そっか……じゃあまたね」
「……ああ」
 振り返る俺。その背中にある物に触れながら彼女は言う。
「また連れて行ってね」
「……ああ。また、な……」

 さあ、行くか……
剣を強く握り締める。そして再び高く、高く……



 もぬけの殻となった城内。足跡から逃げた方角を北と推測した帝国軍は、直ちに追撃の準備をした。準備が整い、出発しようとした時、何処からとも無くか声が聞こえてきた。
「我が名はレオン! 今は亡きノーザンド王国国王、レイオス・ノーズランド・ギルバートが第一子、有翼人の末裔である!」
 一人の帝国兵が発見した。宙に浮かぶ少年の姿を。
「これより先へは一歩とて歩ません! 尚も進まんとする者、全霊を以て相手させて頂く!」
 ゆっくりと地に降り立つ少年。彼の瞳は緑光を放ち、彼の爪は鋭角に尖り、彼の頭髪は銀色に染まり、そして彼の背には大きな真っ白い翼が広がっていた。その姿は天使のようで、その姿は悪魔のようで、しかしただ、美しかった。



 全ての動きを止めた戦場。ふらりと一歩、歩み出た一人の兵士。刹那、風切り音と共に崩れた体と噴き出す鮮血。無骨な剣で潰された体。終わりを告げた一人の一つの人生。
 数本の矢が放たれた。一歩も退かず、大剣を振るっていなす少年。しかし、前に出ることもない。仁王の様に立ちはだかるのみ。少年から数十メートル離れた所で数名の兵士が飛び出した。先ほど放たれた矢を手に取り、投げた。矢は寸分違わず一人の兵士の首を貫く。続いて二投、三投。狙いは外れることなく兵士達を捉らえていく。たった一人、矢をかわした兵士がいた。彼を見たレオンは翼を大きくはためかせ、飛び上がる。そして中空からその兵士を大剣で突き刺した。否、切り裂いた。右肩から股にかけて分断された肉体。断末魔の悲鳴を上げることもなく、左右に倒れる。


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