「Wing」-32
第九章〜翼〜
東の空がゆっくりと白ずんでいき、西の空に残る星達も一つずつ活動を停止していった。
微妙なざわつきを感じさせる城内。やがて、最後まで輝いていた星が消えると、その僅かなざわつきさえも無くなった。そして開かれる城門。
「行くぞ」
先頭を行くハイン、後に続く臣民や文官、そして負傷兵、兵士の順で城を出ていく。長い長い人の列。揺れる揺れる人の波。
ゆっくり目を開ける。ほぼ暗闇と化している室内。鉄格子に立て掛けられている大剣。そろそろ行くか……
体を起こそうとして、右腕の重みに気付く。
……またか……人の腕を勝手に枕代わりにして…………
そこまで考えて、ある重要な事を思い出す。
「クレア、起きろ!」
何でまだ此処に居るんだ。
「あーおはよう」
まだ眠たいのか目を擦っている。
「何でまだ此処に居るんだ!」
「え?」
とにかく外に出てみるか……
クレアを連れて牢屋をでる。既に日はその顔を覗かせていて、城の中にはもう誰もいなかった。
ドゴッ――
突然大きな音が鳴り響く。何度も何度も。分厚い木の門を叩く鈍い音。城門を破壊しようという音。
……もう来たか……どうする……? 考えろ。何が最善か。クレアをどう逃がすかを。
一つ思い付いた。ある事を思い出した。
「抜け穴があっただろ……?」
そう……城の裏側にある抜け穴。あそこなら……「俺が敵を引き付けておく。その間に逃げろ」
門の軋む音が一層強くなる。その時、
「何だ、この音? それに何で誰も居ないんだ?」
間の抜けた声が聞こえてきた。
「あっ、クレア様。おはようございます」
何故此処に居るのか分からないが、丁度いい。一応こんなやつでも兵士だったな。
「……そこのあんた、クレアを頼んだぞ」
「はあ〜? どういうことだよ」
今までで一番大きな衝撃音。ついに破られた城門。
「クレア、行け!」
「うん! カイザさん、付いて来て!」
走って行く二人。さあ、俺もやるか……
向かって来る敵兵。様子見なのか、数が少ない。大剣を構えて、迎え撃つ。まずは大きく薙ぎ払い、その反動を利用してもう一度剣を横に振る。倒した敵の後ろから飛んでくる矢。剣の腹で弾き飛ばす。さらに長槍が襲ってくる。横一線になって突いてくる槍を大きく跳躍してかわし、空中から剣で槍兵を叩き潰す。そのまま剣を軸にして回転蹴り。さらに短剣で懐に潜り込んだ兵士の首を切り裂く。
……一応終わったかな……視線を何と無くクレア達の走って行った方に向ける。すると何故かこちらに向かって走って来るクレアがいた。その後ろに押し寄せてくる敵兵。
「伏せろ!」
俺の突然の声に咄嗟に屈んだクレア。その上を通過する横に振られた大剣。続けざまに剣を振るう。全ての兵を倒したところで怒鳴る。
「何故こっちに来た?」
息を切らせたまま答えるクレア。
「カイザさんが……カイザさんが……」
「落ち着け」
「……全部囲まれてて……それでカイザさんが……」
何だって……?
「どうしよう……」
涙目で尋ねてくる。