「Wing」-30
「……戦ってるとアレが来る……抑えようとすると……」
気配の主の声。ゆっくりと静寂に溶け込んでゆく音。
「……抑えようとすると……目の前が真っ赤になって……意識が何処かへ飛んでしまって……」
少しずついて近付いて来るく音源。
「でもアレを抑えなければ……俺は……人じゃなくなる……」
暗闇の中に揺れる気配。
「……どんなに壊れても人として生きたかったから……アレにはなりたくなかった……」
「……お主の父親、レイオスという名ではないか？」
「何故知っているのです？」
王の質問に肯定の意を含む質問で応えたレオン。「やはりな……初めて顔を見た時から思っていたのだが……先日の話を聞いて半ば確信した」
「……父とどのような関係が……」
「七年前の大戦、相手国として戦った。覚えているのは緑の眼とアレがあったという事。それだけだ……」
「……父は、どうでしたか？」
「強かった。ただ強かった。今の主の様にな」
「そうですか……」
しばしの沈黙。再び静寂が訪れる。
「先程の言葉はどういう意味だ？」
沈黙を破ったのは王の質問。
「……父の事ですか？」
「いや。お主の言った『なかった』だ」
「……それが何か？」
「何故過去形なのだ？」
「逃げて下さい……」
質問には答えず話し続けるレオン。
「……父は、俺と母を逃がす為に戦った……だから今度は俺が……」
「人を失くしても、か……」
「俺の過ちを償うために……大切な人を守るために……覚悟は、できてます」
「そうか……」
「明日の朝、最後の星が消えるのと同時に……城門を閉め、北へ、父のいたあの国へ向かって下さい……後は俺が……」
「承知した。皆にはワシから説明しておこう」
「有難うございます……では……」
「ああ……」
振り返り、去って行くハイン。
そして夜が来た。
「レオン、大丈夫？」
「……クレアか？」
「うん……」
「……別に俺は何ともない」
「そう。よかった……」
緩やかな沈黙。それを破ったのは意外にも、
「……聞かないのか？」
レオンだった。
「何故あんなことをしたのか、聞かないのか？」
何か言葉を探すように俯き、そして再び顔を上げた時、
「聞きたいけど、聞きたくない。あなたが自分から言ってもいいって思った時が私の聞きたい時だから」
穏やかな笑顔を浮かべていた。
「……それなら、聞いてくれ……」
全部話してもいいよな……