「Wing」-24
「ほれ」
いきなり少年に放り投げる。
「え?」
少年は全く訳が分からないといった顔で、それを受け取る。
「大事に使えよ?」
ハンクが満面の笑みで言う。
「これって仕事で作ったんじゃ……」
「仕事? ああ、そんなの嘘だよ」
初めっからお前に渡すつもりだったんだ、と続けるハンク。
「じゃあ……これも付けていい?」
首の宝石を外して少年は言う。
「それはもうお前の物だからな。お前の好きなようにしな」
その言葉をうけ、少年は彫刻刀で先程石をはめ込んだのと反対側の柄に自分のと同じような菱形の穴を彫り、緑の宝石をはめ込む。
「うんそっちの方がいいな。さっきも言ったけど大切にしろよ?」
言葉の代わりに、頭を大きく振って感謝の意を表す。剣を持ったまま何処かへ走り去る少年。
小川のせせらぎが耳に心地良い。此処は町外れの土手。少年は刃渡り三十センチ程の短剣を持って寝そべっていた。月明かりにかざすと光を反射するその姿は、何処か神秘的で、何故か幻想的で、輝く二つの宝石に瞳が吸い込まれて行くような気がした。
その夜はそこで一晩を明かした。瞬く多くの星々と白銀に輝く月と煌めく一振りの刀身の下で。
道端に腰を下ろし、寛ぐ様子の少年。時刻は昼頃。少年はこの頃体調を崩しがちなハンクに代わり、頼まれていた槍の配達で城へ向かっていた。荷台に積まれた槍、その数丁度百本。一本一本はそれほど重くなくても、百本ともなるとさすがにかなり重くなる。従って、朝からのんびりゆっくり、城までの道程を進んでいる途中だったわけだ。
少しの休憩の後、立ち上がって尻に付いた土を払う。軽く伸びをして、再び歩き出そうと荷台に手を掛けた時、少年の来た道の遥か後方で駆けてくる者が一人。近付いて来る彼を少年は知らなかった。
「お〜い! あんた鍛冶屋のとこの子だろ!?」
大声で近寄るその男。
「そうですけど。何か?」
「ハンクさん、急に倒れたってよ!」
息を切らせ、膝に手を着きながら用を伝える。
少年は返事も返さず、もと来た道を走り出す。荷台に積まれたままの槍達。それらも放って、少年は走った。
「おじさん!」
鍛冶場に飛び込み、呼び掛ける。が、返事が無い。あるのは静寂と少年の呼吸音だけ。部屋の奥の方で人の気配。少年は走る。
ドアを開け、中を確認する。少年ベッドに横たわるハンクとその周りを囲む数人の人。
「おじさん?」
忌まわしい記憶頭の中でがフラッシュバックする。
「……おじさん?」
再度呼び掛けるがそれでも返答は無かった。周りの人々は皆俯いて、口に手を当て押し黙っている。
「……ハンクさん、ずっと胸を患っててな……ホントに急に倒れたんだ……それでそのまま……」
誰かが何か言っても少年の耳に入る事はなかった。ただ呆然と立ち尽くしている。