「Wing」-2
――ここは城下町のとある酒場。一人の男が呆然と立ち尽くしていた。男の雰囲気はおよそ酒場のそれには似つかわしく無かった……
「なんて、こった……」
金が足りない……何が原因だ?酒の値段が急に上がったとか?―いや……別に酒が値上がりしたわけでは無い。それなら、いつもよりも多く飲んだとか?それも違う……むしろ普段よりも少ない……何故だ? 謎だ……
自問自答を繰り返していると後から、
「また金が足りないのか……」
呆れた声でマスターが尋ねてきた。
「いくらだ?」
「30ゴート……」
「仕方ないな……また皿洗いでもやってもらうか……」
「また皿洗いっすか〜?いい加減飽きてきましたよ」
マスターの目の端がつり上がる。まるで鬼の形相。
「自分の立場がわかってるのか? ああ?」
こめかみに青筋が…
キレた時のマスターはほとんどヤクザだ。むしろヤクザの方が可愛い顔をしている。ここは素直に皿を洗っとくか……
シャー、ガチャガチャ
黙々と皿を洗っていると、マスターが喋りかけてきた。
「どうだ、カイザ。ちゃんとやっとるかぁ?」
少し手を休めて、マスターに返す。
「そりゃぁ、マスターにあんな鬼みたいな顔で睨まれたら……」
「どんな顔だって?」
まずい。これは本気と書いてマジでキレてる。
今度は顔には出てないが、声に殺気がこもっている。失言をすれば確実に殺される…………嫌だ……まだ死にたくない!!どうすればいい!?
「そんなことより、どうしていつも金が足んないんすかね〜」
話題をすり替える。自称世界最高の馬鹿な頭を使って導き出した解が話をすり替える事であった。
神様、どうか、どうかお助け下さい!
普段は全く信じていないが、神に祈るのも忘れない。
すると奇跡が起きた。
「それはお前がいつも財布の中を確認しないで来るのが悪い!!」
祈りが通じた! 僧侶もびっくりだ。神様ありがとう!!思わず頬の筋肉が緩む。
「どうかしたのか? 気色悪いぞ。ニタニタ笑って……」
「いいえ〜。なんでもございませんわよ〜♪ 以後気をつけますわ♪」
自然とお姉言葉が出てくる。それほど(どれほど?)嬉しい。
「あっ!!マスター。皿洗いが終わったんで帰っていいっすか〜?」
先程より一歩ひいた位置でマスターが答える。
「あ、ああ……」
スキップしながら店を後にする。
「……マスター……あいつなんかあったのか?」
客の一人にそう聞かれても、
「さあ……」
としか、答えられないマスターであった。