「Wing」-15
――隣で寝息をたて、安らかな顔で寝ている女が一人。しかも他人の右腕を勝手に腕枕にして……おかげで手が痺れてる。
とりあえず起こすか?
気持ち良さそうに寝ているしな……このまま寝かせといてやるか……
もう、夕方なんだな……
首を捻って窓から外を見る。この間と同じような、でも何かが違う、そんな夕暮れ時の景色が広がっていた。残酷な紅を宿した太陽。その紅を受け、紫に染まる雲。視線を落としてクレアの顔を見る
一昨日会ったばかりの少し騒がしくて……でもとても温かくて、人の温もりを久しぶりに感じさせてくれた彼女。
寒いのだろうか、体をくっつけて来る。窓が開いている為かもしれない。そのまま抱きしめてやっても良かったが、寝ているところをするのも何なので、肩に手をかけ引き離そうした、その時、
「クレア様、失礼します」
二度のノックの後、扉が開けられた。
男と視線がかち合う。非常に気まずい空気。
「……貴様。クレア様に何をしている?」
男が警戒した声で聞いてきた。仕方ない事だろう。この状況では、寝台の上で自分が彼女を抱きしめようとしている様にしか見えない。
「……誰だ? お前……」
男の質問には答えずに逆に聞き返してやる。
「……ん……あ、おはよう……」
クレアが眼を覚ました。
「クレア様。そいつからお離れ下さい」
男がクレアに言う。彼女は暫くの間ボーっとしていたが、急に顔を赤くして慌てて体を離した。
「なあノーヴ。用があるのはその坊やだぜ?」 隣にいた頭の悪そうな男が割り込んで来た。
「よお!!」
しかも馴れ馴れしく挨拶して来る。誰だ……? 何処かで見た気がする。気のせいか……
「こいつか。おい、お前! 王がお呼びだ。ついて来い!」
先程まで喋っていた男が命令口調で促して来る。
ベッドから下り、男達の後をゆっくりとついて行く。まだ少し体が重いが先刻眼を覚ました時よりは大分ましになった気がする。
「ノーヴ。俺、便所に行くから先に行っといてくれ」
頭の軽そうな馬鹿が途中で抜けた。したがって、重苦しい雰囲気の中堅物と歩き続ける事になってしまった。
「兵士の挑発に乗ってその兵士を殴打。そして止めようとした別の兵士を殴ってしまい、大乱闘。それでよいな?」
王室ではなく、会議場のような所で尋問されているレオン。大きな長机には若いのから年老いたの、太ったのから痩せこけたのまで色々並んで座っている。当然王は上座。レオンは下座である。
「何故、あそこまでした?」
まあ当たり前の質疑である。
…………あんたにわかるのか? 死んでしまった人を馬鹿にされるとどれだけ辛いか……大好きだった人を蔑まれるとどれだけ辛いか……自分の無力さを嘆いた日々がどれだけ悲しいか…………
「……どれだけ強くなれば、大切な人を守れるようになるんですか?」
突然の問いに場内がざわつく。
「……守りたかった! でも……守れなかった……その過去を傷つけられて我慢出来る程、俺は強く……無い…………」