「Wing」-14
そんな室内の雰囲気を完全に無視した間抜けな声。
「王様ぁ〜。 第二歩兵部隊隊長カイザ・ファイネオル。参りました」
「カイザか。入れ」
「失礼します。なんだノーヴ、いたのか」
「なんだとはなんだ!!お前こそ何でこんなとこに来てるんだ!?」
「相変わらずうるさいなぁ」
「うるさいとはなんだ!」
「二人共、静かにしろ! カイザ、報告に来たのではないのか?」
「すみません……」
王が珍しく声を荒げたので、背の高い方の男はばつの悪そうな顔で謝った。
が、小さい方の男は大して気にしていないようだ。
「あぁ、そうだった―――え〜、昨日行われた演習の内容は負傷者数九十七名。内、全治一ヶ月以上の者九十一名。我が第二隊はほぼ全滅ですねぇ。あっ、嘘じゃないですよ、これ」
軽く言い放つ。あっさりと言い放つ。本当に軽く、非常にあっさりと言い放ちやがった。
「なっ、何をやったんだ?」
傍にいたノーヴが疑問符を張り付けた顔で問う。
「俺は何にもやってねぇぜ。十七、八ぐらいのガキが一人でやっちまったんだよ」
「……詳しく聞かせてくれ」
それまで黙って聞いていた王が口を開いた。
そこでひとつ咳払いして、
「あ〜。それがこんな風に……」
変な構えをとり、身振り手振り使って説明し始める。
「……挫りグチャして、∞えウ゜Ωして……」
たまに訳の分からない単語が飛び出したり、
「人間語を喋れ」
ノーヴのツッコミを喰らったりしながらも、
「……と、言う訳なんですよ」
何とかかんとか説明し終わり、
「そうか……」
それが一応ではあるが伝わったらしい。奇跡だ……
「……」
「……」
「……」
話し終わったので何もする事が無い阿保男と、阿保な説明に呆れて何も言えない男と、阿保な説明を理解して目を閉じ思案顔になる男。
沈黙……
「……」
「……」
「……」
さらに沈黙……
「……」
「……」
「……」
もっと沈黙……
「……」
「……」
「……その少年を連れて参れ」
長い沈黙を破り、命を下す。片方の男は小さく頷いて、もう片方の男は嫌そうな顔をしながらも渋々承諾して、二人共一言も発する事無く、部屋を後にした。
……どういう事だ? 大体状況は飲み込めた……だがしかし、理由が分からない……順を追って整理して考えてみるか……
一昨日、女を一人助けた。馬鹿共の相手をしてやったな……名前を聞いた。クレア、か……町まで送ってやってそこで別れたけど、雨が降ってきて、結局、町に引き返した。久しぶりの雨だったな……そういえば五月蝿い奴もいた。名前は……忘れた。まあいいか……雨が上がったら夕日の街と星空を見た。綺麗だったな、本当に……城に住んでるって聞いた。その時は姫様やってる事、分からなかった。普通はそうだと思うが……朝になってこの城に来た。かなり驚いた。まさか王の娘とは……王に会った。何故か鍛練場へ行かさせられた。今でも理由がわからない……そこで少し暴れた。ああ、またやってしまったんだな……これで三度目だ……倒れたって言ってたな。だからここで寝ていた。一度目を覚ましたけど、また眠たくなって寝た。それで今起きたら――――