「Wing」-13
第五章〜予〜
――たくさんの音が聞こえる――何かがぶつかり合う音――部屋が崩れる音――迫り来る炎の音――……背中が熱い…………
部屋の隅で母子が身を寄せ合っていた。
「お母さん。お父さんどこ行ったの?」
何も答えない。ただ涙を流しているだけで。
「ねえ、お母さん……」
もう一度同じ質問をしようした時、扉が勢い良く開かれ、息を切らせた男が立っていた。よく見なくても判るほど全身に傷を負っている。
「……ユキ。レオン、と逃げて、くれ……」
「あなたは……?」
息を切らせたまま言葉を紡ぐ男。泣きながら母が男に尋ねる。
「頼む……」
問いには答えず、ただ抱きしめながら返す。外から誰かの呼ぶ声。
部屋が、城が揺れている――
目に光が差し込んでくる。ここは……?
「あっ!!レオン。気がついた?」
「ああ……」
また夢を見てたのか……体がだるい……
「倒れてから一日中ずっと、寝てたんだよ?」
どうりで……
「……ここは?」
「私の部屋だよ」
少し無理をして上体を起こす。なかなか広い部屋のようだ。中心に在る、ベッドの上で寝ていたらしい。
起き上がろうとしたが、足がふらついて、ベッドの上に倒れこんでしまった。
「無理しちゃだめだよ」
そう言って、ハンカチで汗を拭ってくれた。自分の服を見ると、普段のものとは違ってる。
「……あんたが世話、してくれたのか……?」
「そうだけど。迷惑だった?」
人って本当に温かいものだったんだな。
「クレア……」
「ん?」
「ありがとう……」
素直に感謝の言葉が出てくる。
「どういたしまして」
少し動いたせいか再び眠気がやってきた。
「もう少し、寝てもいいか?」
「どうぞ。ゆっくり休んで……」
今度は自然に目を閉じる――
「おやすみ……レオン」
頬に何か生温かい感触が……気のせいか……
もう一度、意識を深く、深く精神の奥底に落とした。
同時刻、隣国に向かわせた伝令の兵士が王室へと歩を進めている。その表情は真剣で、険しいものだった。
「ハイン王。いらっしゃいますか!!」
はっきりした声で尋ね、返答がくる前に荒々しく扉を開ける。
「何事か? 騒々しい」
王が怪訝な顔をして聞く。
「申し訳ありません」
「よい。して何事じゃ?」
「はっ!!それが……リングルドが滅ぼされていました」
「なんじゃと?」
「遠目ではっきりとは確認出来ませんでしたが、そこかしこから煙が立ち上り、城壁が崩壊していたのでおそらくは……」
「相手国は?」
「ティ・ハザス帝国かと」
「そうか……ならばじきにこちらへも来るだろう……」
場の空気が一気に沈んで、しばしの沈黙が流れる。