黒の魔導師-5
「アース」
魔力を戻したんだからさっさと行け、という目をして呼ぶベルリアを、アースは軽く睨んで、学長室に置いてあった一振りの剣を手に取る。
「借りるぞ」
そう言うと鞘に付いている金具をベルトにはめて固定し、目を閉じて魔力を解放する。
一瞬、アースを中心にブワリと風が渦巻き、すぐに収まる。
顔をあげたアースの黒かった目は、金色の輝きを放っていた。
窓枠に足をかけたアースは躊躇なく外に身を踊り出し、軽々と地面に着地すると同時に走り出す。
魔力に余裕があれば飛んで行きたい所だが、今回は場所も近そうなので走る事にする。
火元に近づくにつれてかなりの熱風が襲いかかってきた。
地上は逃げ惑う動物や、燃え落ちる木などで大騒ぎだ。
アースは腰に差した剣を抜いて、落ちてくる木をなぎ払いながら舌打ちをする。
このままでは火元も分からないし、進むのも難しそうだ。
上空から行った方がいいかな、と思案していた時……
「おい!アンタ、魔法使いか?!」
不意に声をかけられた。
振り向くと、少し離れた所に目深にフードをかぶった旅人風の人物がいた。
「ああ!そうだ!」
「こっちだ!」
大きな声で返事をすると旅人は片手を上げて道案内をしよう、と手招きする。
「火元がわかるのか?」
近づきつつ問いかけるアースに旅人は頷き、ちょっと言いにくそうに話す。
「…オレには精霊が見えるから…彼等が教えてくれてる」
精霊はあちこちに存在しているが、見えるという人物は初めて聞いた。
「へぇ…凄いな」
素直に感心するアースに旅人はちょっと振り返る。
「なんだ?」
何か変な事言ったかな?とアースは自分の言動を頭の中で振り返ってみるが、特に失礼な事は言ってない……と思う。
「いや……こっちだ」
先に走り出す旅人を追いかけながら、アースは一応自己紹介をする。
「俺はアース。魔導師だ。お前は?」
「キャラ」
キャラと名乗った旅人は、倒れてる木や逃げてくる動物達を身軽に避けて進んでいく。
アースはキャラの見事な身のこなしに感心しつつ後ろ姿を眺める。
厚手の外套を着ていてよく分からないが、声は女にしてはハスキーで男にしては高い……が……しゃべり方からして多分、男。
キャラの後ろを走りながら、アースは軽くため息をついた。