淡恋(前編)-7
忘れもしないあの日の夜だった…。
「…カズオ…おまえ、今夜は地下室行きだぜ…」と、ホストクラブのオーナーであるサエキから、
突然そう言われ、僕は微かな震えを膝に感じた。
地下室…ホスト仲間は、その秘密の地下室をショー部屋とも呼んでいた。毎月の指名の回数が
少ないホストが罰として行かされる部屋のことだ。
十数人ほどが座れるボックス席に囲まれた中央の小さなステージの上では、その日に罰を受ける
ホストが全裸にされ、SMプレイと称して、招待された客に嗜虐されるのだ。
集まった客たちは、ステージの上で縛られ、天井から吊されたホストの裸身をいたぶり、嬲りあ
げ、酔いしれる…。
そして、地下室に僕が行かされたその夜、マサユキさんは、あの女とステージのまわりのボック
ス席に座ったのだった…。
剥き出しのコンクリートの壁で囲まれた狭い部屋には、ライトの眩しい光の熱が漂い、僕の肌に
うっすらと汗を滲ませている。
十数人の客とホストたちに混じって、マサユキさんと女が、ステージを囲む薄暗いボックス席の
中からじっと僕の姿を見ていた。そして、僕の裸体から目を背けたマサユキさんに肩を寄せた
あの女は、酒のグラスを手にし、うつむいたマサユキさんの強ばった頬に唇を寄せるように何か
を囁いている。
僕の頭の上部に伸びきったしなやかな腕…そして、手首に嵌められた革枷は、高い天井の滑車
から垂れ下がった鎖につながれていた。僕の白い裸体が床からわずかに浮くように吊りあげられ、
爪先だけがわずかに床に触れた足首は、鉄のパイプの両端に二肢を大きく開かせられて足枷で
固定されていた。
部屋には、僕の裸体に注がれる欲情にみちた客たちの視線が、熱気とともに籠もっていた。
「どなたか、カズオとプレイを希望される方は、いらっしゃいませんか…どんな虐めもけっこう
ですよ…」
オーナーのサエキが部屋の客に声をかける。
そのとき、手をあげてボックス席から立ち上がった女は、マサユキさんといっしょにいた中年の
あの女だったのだ。
「わたしって、かわいい男の子を虐めてみたかったのよ…」
そう呟きながら、酔った顔を赤らめたその女は、黒いハイヒールの音を響かせ、ステージに
上がってくる。はち切れそうな赤いミニドレスに身を包んだ、肥えたその女は、噎せるような
強い香水の匂いを漂わせていた。
女は喰い入るように目を細めながら僕の裸体を見つめ、僕の腋の下から胸のふくらみにかけて、
掌を撫でるように這わせた。
「まるで、女の子みたいなきれいな肌をしているわ…」と、女は楽しそうに僕の蕾のような桜色
の乳首を指先でなぞる。
…あっ…
肌を擽る淫靡な指の感触に、僕は思わず声をあげる。
女はその指をゆっくりと僕の脇腹に這わせ、臀部の翳りをなぞる。双臀の割れ目に沿って、上下
にゆるやかに指先で撫で上げる。