「ガイア」-4
恐いくらいに頭が冴えていた。
知りたくない事実まで分かるほどに…。
真実、それが…自分の記憶の中ではっきりとしてくる。
「理解でしました?」
…愚かだ。
なんて自分は愚かなのだろう。
ココは…コイツは…危険の塊…
「フィン…!」
入口の戸は開いていて、そこには、鮮やかに煌めく銀髪のフィンが居た。
「全て理解出来たはずです」
「な、何を…」
白をきる。たが、無力過ぎる抵抗。
「あなたが会った、この老人…」
武流の脳裏を、山火事の時に会った老人がよぎる。
「私の祖父です」
「ーーー!?」
周りの紅い文字達が、自分を中心として円を描く。それと同時に、自分のモノではない記憶が再び流れてきた。
「これは…?」
「祖父の記憶です。貴方は、祖父の力を受け継いだ者です」
高速、音速、光速…
けして、何が流れているか分からない速さで、その真実の記憶というモノが流れていく。
…それでも何故か、全てを理解できた。
そして、自分の意思ではない意思に襲われる。
「そ、そんな馬鹿な…。こんな…こんな事…!」
「見た記憶全てが事実です。武流さんが見た通り、私達は地球外の人外の輩から地球を護る者」
「ありえない…あんな…化け物…」
記憶の中で、地球を襲おうとしている化け物を倒す人々。
赤子の相手をしているように、化け物を倒す者達。
それは全て現実。
嘘にしては、この現象ははっきりし過ぎている。
「私が武流さんに見せてるソレが、私達の使命」
「これを、フィンが見せてるだって…!?」
「祖父の力を解放しているだけです。そして、その力は武流さんの中に眠っています」
武流の体が、ゆっくりと下りてくる。
そして床に足が着く。
周りの文字達が消えていった。
「…返せ」
「無理です」
「俺を返せ!」
今の武流は、武流と、未知なる何かが合わさった武流。
前の自分じゃない。
当の本人が、一番理解していた。
「あの戦いに地球の俺等を使う気か!?」
自分の中の、自分のモノではない記憶が言っていた。
戦いの中で、フィンの一族が滅んだ。
地球の衛生の一つ、小さな小さな星と共に。
そして、まだ敵は排除出来ていない。
生き残りのフィンと、即席で作った、今の武流と同じ地球人で、それを排除しようとしている事。
「貴方は祖父に支配されています、逃げる事もできません」
そう言った後、フィンは武流に向かって木刀を振り下ろす。
とっさに手で庇う。
…信じられなかった。
木刀は、二つに折れた。
防いだ手は痛くも何ともない。
「このように、力も備わっています。私の言う通りにすれば、まず死ぬことはないでしょう」
フィンはもう一度、武流に協力を願う。
すでに支配された武流には、抗う術がなかった。
その後、数十人の知らない他人と修業を積むことになる。
その中で、武流の考えは変わっていった。
完全に支配されただけかもしれないが。
地球を護る使命を受け入れ始めていた。
地球の核に「ガイア」というモノがあり、それは地球の生命、自然、終いには公転など、天体にも関わる力を持っているらしい。
その力は測り知れず、恐ろしい力を秘めている。
それを狙う、地球外生命の人外のモノ。
それから護る使命。
それを受け入れ始めた。
自分には、それが出来る力がある。ならば、自分がやらなければ…。
そう自らに言い聞かせ、運命を受け入れた。
後に、武流はフィン達と共に、敵の残党の撃破を成功する。
だが、ガイアを狙う輩は、まだまだいる。
この広い宇宙に、無限に…。
終わることのない、使命。
だが、悔いはない。
今の自分には、これが誇りだから。
苦しくない、と言えば嘘になる。
だが、大丈夫。
今は、戦友が居る。
仲間が居る。
唯一無二の親友も居る。
戦いの中で芽生えた友情。
今ではお互い戦場で背を預けられるほどに。
だから再び友に言う。
「ありがとう」
隣を歩く友は笑う。
そして言い返す。
「どう致しまして」
「はは、これからもよろしく」
「無論です」
二人は歩く。
これからも、命を賭けて戦った戦友として、全てを分かち合う親友として。
出会いは最悪だったが、今は気にしない良き思い出。
…ふと、二人の足が止まる。
「…駅北口方向、歪み確認です」
「んじゃ、さっさと片付けちまおう」
「はい」
二人は疾風の如く走る、人外の速さで…。
「行こうフィン!」
「はい武流さん!」
今日も彼等は戦い続ける。
地球と、自らの明日を賭けて…。
−了−