異界幻想ゼヴ・ヴェスパーザ-22
隣にいるフラウは、空色と白に近い蒼のガウンだ。
自分と違って慎ましやかに全身を覆っているが、それが豊満な肉体をより強調している。
長い髪は入念にカールされて左肩から流れ落ち、ガウンの色をより引き立てていた。
フラウの隣には、ジュリアス。
今回も軍服かと思ったが何かの話し合いがあったらしく、黒いマントに赤を基調とした礼装を着用している。
普段ほったらかしの髪もしっかり撫で付けられ、凜とした貴公子のたたずまいだ。
ティトーも染色を抜いて髪をセットし、神機を意識したエメラルドグリーンと銀の礼装である。
「!」
大きな音がして出入口の扉が開き、ユートバルトが姿を現した。
深みのある青をベースに金の装飾を施した礼装で、このカラーリングは以前にも目にした事がある。
たぶん、ユートバルトが好きな配色なのだろう。
気負わず自然に着こなしているし、本人にもよく似合っていた。
絨毯を踏み締め、ユートバルトは威厳たっぷりに祭壇の前へ行く。
定位置まで歩いていき、ユートバルトは立ち止まった。
しばらくして、聖堂の上方に設置された鐘が軽やかに鳴り始めた。
高く澄んだその音が、挙式の開始を国民に知らせる。
再び扉が開いて、ファスティーヌが姿を現した。
意味合いはあっちと同じらしく、色は目の覚めるような純白で統一されている。
優雅なマーメイドラインのウエディングドレスに、ベールとレースの手袋。
頭上に輝くティアラは銀に宝石をちりばめてあり、伯爵家と王家の意匠があしらわれていた。
ほう、と誰からともなくため息が漏れる。
扉をくぐってから少し間を置き、ファスティーヌは自分の晴れ姿を参列者に見せ付ける。
それからゆっくりと、ユートバルトの隣へ歩いていった。
二人がひざまづいて頭を垂れると、大司教が簡単な説教を始めた。
それが終わると国王と王妃が祝辞を述べ、四人にお鉢が回ってくる。
四人で二人の前に出ると、まずは深花が口を開く。
「私はこのような場に招待された事がほとんどなく、気の利いたスピーチもできません。なので相談した結果、四人で歌を歌わせていただきます」
深花が楽団に向けて頷くと、楽士達は演奏を始めた。
一歩進み出て、深花が歌い出す。
それはイリャスクルネ失踪から失われていた、最高位の者のみが歌う事を許される相伝歌だった。
聖堂の中に、澄んだ歌声が響き渡る。
温かい芽吹きの春。
活気づく生き物を愛おしみ、褒め称える歌。
無言でジュリアスが進み出て、歌を引き継ぐ。
ジュリアスが歌うのは、暑い夏。
生き物に与えられる試練と恵みを称揚する。
次いでティトーが進み出て、豊饒の秋を歌い出す。
自然の中に溢れる実りと忍び寄る停滞を警告する。
最後にフラウが歩み出て、厳しい冬を歌う。
雪と氷に閉ざされる寂寥感と、やがて巡り来る春を待ち望む歌だ。
そして、四人の歌声が重なる。
四精霊が生きとし生ける者を慈しみ、この婚礼を祝福する歌へと歌の中身が変化する。
歌い終わると、聖堂内に拍手が沸き起こった。
「……最高の祝福を、ありがとう」
礼を述べたユートバルトの声が、震えている。
「まさかこの歌を聞けるとは思わなかった。そうだろう、ファスティーヌ?」
「ええ」
ファスティーヌは目に涙を浮かべ、感に堪えぬ風に頷いた。
「今日をもって嫁ぐ我が姉に、門出の祝いを」
厳かに、ティトーは言った。
「四精霊の代表として、我々はそなたらに祝福を与える」
ジュリアスが、後を引き継ぐ。
「いつまでも賢き事この上なく、王の血を絶やす事なかれ」
フラウが、言葉を付け加える。