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異界幻想
【ファンタジー 官能小説】

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異界幻想ゼヴ・ヴェスパーザ-23

「王子よ」
 そして深花が、言葉を締め括った。
「常に慈悲深くあれ。揺らぐ事なく民草を導き、永代の栄えあれ」
 四人の言葉は聖堂の隅々まで染み渡り、沈黙が落ちた。
 ややあって、再び鐘が鳴り出す。
 鐘の音を聞くとユートバルトは立ち上がり、ファスティーヌに手を差し延べた。
 その手をとってファスティーヌも立ち上がり、踵を返して外へと歩き出す。
 二人が扉から出ていき、すぐに割れんばかりの歓声が轟いた。
 この日のために城の前まで押しかけてきている、国民の声だ。
 少し間を置いて、参列者が退席し始める。
「……上出来よ」
 四人に向かって、メルアェスが声をかける。
「及第点をあげる……特に深花、あなたにね」
「!」
 王妃直々に声をかけられ、深花はぽかんとした。
「これからが楽しみだこと。ティトー、期待しているわよ」
 仲のいい甥っ子にそう言うと、メルアェスは国王と共に聖堂を後にした。
「……どういう意味だよ伯母貴ぃ」
 ティトーが小さくぼやく。
「それを解くのがお前の役目だろ?」
 にやにや笑いながら、ジュリアスはティトーの肩を叩く。
「冗談じゃねー……今日はもう何も考えないからな!」


 挙式が済むと、参列者はそのまま祝賀会の会場へ向かった。
 食べたり飲んだり踊ったり、かろうじて下品にならない宴は延々と続く。
 知らぬ間に夜の帳が落ちた頃、ジュリアスの姿は会場のバルコニーにあった。
 服の喉元を少し緩めて楽になると、手に持っていたグラスの中身を煽る。
 微発泡のワインは、するすると胃の腑まで落ちていった。
 手摺りに体を預け、ちらりと大きなガラス窓で仕切られた会場内を見遣る。
 幾人かの貴族令嬢が、自分を探してうろうろしていた。
 よほどの事がない限り基地から出ないジュリアスの心を射止める事ができれば未来の大公爵夫人の座が同時に手に入る事になるのだから、目の色が違う。
 頭がこんがらがるような長い名前が示すように、大公爵家は色々としがらみがある。
 その分という事なのか、実の所結婚相手はかなり自由に選べるのだ。
 過去を振り返れば、娼婦だったり闇の世界の住人だったり世間があっと驚くような女と結婚した当主が、けっこういる。
 だから神機チームへの入隊条件として祖母の汚名を濯ぐ事を突き付けた異界と混血した女を妻に望んだ所で、世間はたいして驚かない。
 異界との混血そのものは自由に行き来できた昔は割と頻繁に行われていたし、彼女自身は何の罪もないのだ。
「ふ……」
 ため息をついて、ジュリアスは頭をしゃっきりさせた。
 女の意思を確かめないうちからこんな事を考えていたら、恋患いで自分が倒れても文句は言えない。
 交際期間は短く結婚生活開始は早めが奨励されているのでそういう事を思い悩むのは致し方ないのだが、ジュリアスとしては考え続けたい話ではなかった。
 ガラス扉の向こうに深花の姿を求めると、彼女はフラウと共に貴族の子弟とダンスに興じていた。
 昔警告した通り、深花はダンスも会話も愛想が悪くならない程度に短く済ませている。
 会話が長引けば子弟に誘われて会場を抜け出し、愛を囁くためにどこかの暗がりへ連れ込まれる事態も有り得るのだ。


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