異界幻想ゼヴ・ヴェスパーザ-18
「こんにちは」
「あ、あらあら」
こちらに気づいたおばちゃんはこれ幸いとばかりに、二人へ向き直った。
「ご飯もらってもいいですか?」
できるだけ朗らかに、深花は言う。
「ええもちろん。ティレット、食事の用意をお願い」
「は、はいっ!」
ティレットと呼ばれた女の子は、慌てて二人分の食事を用意し始めた。
「あ、もう一人前分もお願いします」
この場にいないジュリアスの分も頼むと、おばちゃんが一人分追加してくれる。
漂う匂いが比較的少ないテーブルに陣取ると、二人はジュリアスの合流を待った。
しばらくして、鼻に皺を寄せたジュリアスがやって来る。
「一体何があったんだ?」
深花は、フラウと顔を見合わせた。
「ん〜……」
「まあ、爆発コントが」
「はぁ!?」
納得いかない顔をしたジュリアスだが、追求は諦めて夕食に取り掛かった。
体格を維持するという側面もあるのだろうが、ジュリアスは健啖家である。
多めに盛られた食事をテンポよく、おいしそうに平らげるのだ。
しかも食べこぼしなどがなく、実に綺麗で見ていて気持ちがいい。
他人を不快にさせる事がない食事マナーは、さすがに育ちのいいお坊ちゃんなんだなあと深花は思う。
普段の粗雑な態度を見るにつけ、育ちは氏素姓より環境なんだろうかと思わされたりもするわけだが。
ジュリアスに負けじと夕食を平らげながら、深花の視線は厨房内を走り回るティレットに張り付いていた。
同い年くらいの女の子、というだけで親近感が湧く。
ティレットの方でも深花の存在が気になるようで、お互いの視線はしばしばぶつかった。
そんな二人を見て、ジュリアスとフラウは顔を見合わせた。
「まあ、年の近い友達を作る機会はないしなぁ」
自分達三人は深花にとって友達とは違う次元にいるので、フラウはジュリアスの言葉に頷くしかない。
感情を表現するのがうまくないフラウとしては自分を受け入れてくれたとはいえ深花にどう接すればいいのか分からない所もあり、いまいち親しくなりきれていないのが現状である。
「それなりにこっちへ馴染んだ事だし、友達の一人や二人作ったって罰は当たらないだろ」
いち早く食事を平らげたジュリアスは、彼女の姿を眺めた。
見た事のない顔なので、新しく雇われた調理担当者なのだろう。
まだ場慣れしていない事が丸分かりのあやふやな動線で、調理場内を右往左往している。
ふっと一息ついた少女が、また深花を見た。
深花を見ていないので詳しくは分からないがばっちり視線が合ったらしく、彼女が挙動不審になった。
「そういやあの子、何て名前だ?」
「ティレット、らしいわ」
フラウが、名前を教えてくれる。
「あんまり聞かない名前だな」
「そう?」
またしても目が合ったティレットへ、深花は笑いかける。
それを見たティレットは、おずおずと笑い返した。
なかなか、滑り出しは好調のようである。