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異界幻想
【ファンタジー 官能小説】

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異界幻想ゼヴ・ヴェスパーザ-19

 その日の晩、話し相手に飢えていたんだと深花は実感した。
 勤務を終えたティレットの部屋に行き、名前を名乗り合う所から始まって色々な話をした。
 真面目な事もくだらない事も、笑い転げながらしゃべってしゃべって夜を明かした。
 名残惜しいが、互いに仕事のある身。
 別れの挨拶を交わし、深花は談話室に向かった。
「おはよふ……」
 四人の合流場所になっている談話室には、既にジュリアスとフラウがいた。
「どこまでヒートアップしてたんだ」
 欠伸混じりの挨拶を、ジュリアスは聞き咎める。
「いや、ごめん……」
 リオ・ゼネルヴァに来てから早数ヶ月。
 非番の日以外は寝坊や遅刻といっただらけた態度を出した事は一切なかったのに、今日初めてそれを出してしまったのだ。
「友達ができて嬉しいのは分かるが、きちんとけじめはつけろ」
 だから、ジュリアスの釘刺しは当然の事だ。
 寝ぼけ頭で切り抜けられるほど手加減した訓練を課してもいないので、まずは眠い目を覚まさせる事から始めるかとジュリアスは考える。
 眠気を覚まさせる方法を考え始めたジュリアスの耳は、こちらへ駆けてくる足音を捉えた。
「ん?」
 出入口に目をやると、そこにティレットが立っていた。
「あ、あああ……」
 落ち着かなげにジュリアスとフラウの顔へ交互に視線を走らせると、駆け寄ってきて深花にカップを手渡す。
「め……目覚まし!眠いだろうから……」
「あ……」
 呆気に取られた深花だがすぐに微笑み、礼を言ってカップを傾けた。
「薬草を煮詰めて作ったの。眠気覚ましと強壮効果があるから……訓練、頑張って」
「うん。ありがとう」
 薬湯を飲み込んだ深花は、ティレットにカップを返した。
「それじゃ」
 ティレットの姿が見えなくなってから、ジュリアスは言った。
「ずいぶん気の利く友達だな」
「少々、恐がりではあるかしら」
 フラウが、眉間に皺を寄せる。
「別に取って食うほど悪趣味じゃないのに……」


「面倒だ。二人まとめてかかって来い」
 ジュリアスが、挑発の仕草をした。
「余裕ね」
 フラウは薄く笑い、深花に合図した。
「深花」
「はい」
 二人は息を合わせ、ジュリアスを囲む。
 まずは、フラウが仕掛けた。
 ジュリアスの視界を撹乱し、強烈なキックをお見舞いする。
「ふっ!」
 鋭く息を吐き、ジュリアスは腕で足を受け止めた。
 それから素早く技をかけ、フラウを転倒させる。
「やあっ!」
 フラウが転びきる前に、深花が飛び掛かった。
 体をずらして攻撃を避け、勢いのつきすぎた深花の体を引き寄せる。
 軽く関節を決めてやれば、もう深花は動けない。
 悪意も敵意も持っていない相手なのでそれ以上の真似はせず、ジュリアスは深花に関節技から抜けるためのコツを教える。
「うぅ〜……!」
 必死でもがく深花だが、筋力に差がありすぎてなかなか腕を振りほどけない。
 もう少しだけ力を緩めると、ようやく深花は自由になった。


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