異界幻想ゼヴ・ヴェスパーザ-12
「ましてや貴族の令嬢と……未来の妃殿下と友情を結ぶなど、人以下として扱われた事のある生き物が望んではいけない事と思われます」
「フラウ」
ファスティーヌは、両手に力を込める。
「それでも、私はあなたを友達と呼びたいの……立場なんか、関係ない」
ユートバルトが、口を開いた。
「王城に上がれる事がファスティーヌと友情を結ぶ条件なのなら、私がそれを与えよう。ミルカ、君にも……神機パイロット引退後は、私の相談役として城に詰めて欲しい。今回、自分の優柔不断と周囲に恵まれるありがたさを痛感したからね。性別など関係なく、有能な人材はいくらでも欲しいものだ」
「殿下。あたしは、有能な人間では……」
抗議しかけたフラウの肩を、深花が叩く。
「いいじゃないですか。私達は神機パイロットを辞めたら、仕事がないですし。雇用のチャンスですよ」
わざとおどけた深花の台詞に、フラウは苦笑した。
そして、ファスティーヌの手をしっかりと握り返す。
「……ファスティーヌ。あなたは、あたしが人間になる手伝いをしてくれた。でも身分が違いすぎて、あたしはあなたを友人と呼びたくても呼べなかったわ。だから今、仕事の斡旋なんか関係なくあなたをこう呼びたい。ファスティーヌ・ラウエラ・ファルマン、あなたはあたしの友人です」
部屋に二人を残し、四人は退室した。
「さーて……戻ったらザッフェレルに謝って、訓練頑張らないとなぁ」
伸びをしながら言うティトーは、傍目にも分かるほど上機嫌だ。
「それと深花、振り回して悪かった。後で埋め合わせを……」
言葉を切って、ティトーはまじまじと深花の顔を覗き込む。
「埋め合わせ……って、俺」
「代わりにやっといたから心配すんな」
ジュリアスの声に、ティトーは怪訝な顔をする。
「お前がそういう事を忘れるくらい動転してなきゃ、思い出させてやったんだけどな。ユートバルトを問い詰めるのに忙しくて、完全に失念してたろ」
「……そうか。すまん」
素直に謝るティトーの顔に、一瞬思案が浮かぶ。
「それより、帰りはどうしようか。カイタティルマートに乗ってくか?」
すぐにそれを打ち消すと、ティトーはそう言った。
「俺は馬に乗ってきたから、それで帰る。深花、お前はどうする?」
「どうするって……」
ジュリアスからいきなり話の水を向けられ、深花は困った。
「馬なんてまだ乗れないし、ティトーさんが飛んで帰るならそれに付き合わないと……」
「ティトー、あなたの分の馬も念のために連れてきてるけど」
フラウの言葉に、ティトーは頷いた。
「そうか。じゃあ、そいつに乗って帰ろう」
「なら、お前は俺と同乗だな。三頭の中で二人乗りに耐えられるのは、黒星くらいだ」
「よし決まりと」
その他にも色々と話しながら四人は、玄関ホールに差し掛かる。
「……!」
誰かを呼ぶ声が、斜め後ろから聞こえた。
ぎくりと、ジュリアスが身を震わせる。
「……急ぐぞ」
深花の手をとったジュリアスは足を速めたが、少し遅かった。
「兄上ーっ!」
ホールを行き交う人間を押しのけて、少年が姿を現す。
背丈は、フラウと同じくらいか。
黒というより、漆黒と表現するのがふさわしい髪色。
ルビー色の瞳は再会の喜びが満たされて、きらきらと輝いている。
略式の礼装に身を包んでいるが物腰は堂々としていて、この場の誰にも引けを取らない。
そのカラーリングといい顔立ちといい、少年とジュリアスはそっくりだった。
「兄上!」
少年は、ジュリアスに抱き着く。
「お久しぶりです兄上!」
「あ、ああ……」
何故か動揺しているジュリアスは、深花とフラウの顔を見る。