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異界幻想
【ファンタジー 官能小説】

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異界幻想ゼヴ・ヴェスパーザ-13

「しばらくぶりだな、エルヴァース」
 頭を何度か撫でてやると、ジュリアスは少年をやんわり引き剥がした。
「……弟さん?」
 深花の声に、ジュリアスは頷いた。
「エルヴァース、挨拶しな」
「はい!」
 少年は深花へ向き直ると、優雅に一礼する。
「大公爵公子ウィルトラウゲータ・アセクシス・エラウダ・バラオート・カイゼセンダージュ・バラト・ジュリアス・ダン・クァードセンバーニの弟で、クィゼルダンバード・ヌェルパラウグ・グエド・サンパージュ・アラヴィザパーナ・サパラ・エルヴァース・カラト・クァードセンバーニと申します。はじめまして!」
 またしても、頭がこんがらがるような長い名前である。
「は、はじめまして。ミルカを勤めています、深花と申します」
 苗字を名乗らなかったせいなのか、溢れんばかりの親愛を振り撒いていたエルヴァースの表情が変化した。
「あなた、苗字は?」
「え?」
 この世界において苗字は永続的な特権階級のためのものであるため、深花は持っていた苗字を捨てた。
 ついでに言えば、フラウも苗字は持たない。
「平民のくせに、兄上のお手を……!」
 何か言いかけたエルヴァースの側頭部を、ジュリアスは警告を込めて軽く叩いた。
「俺の仲間を侮辱するな」
 態度を叱られたエルヴァースは、しゅんとおとなしくなる。
「……はい」
「すまない。根は悪い奴じゃないんだが、貴族的な価値観に染まってて……平民を差別したがる悪い癖が直らないんだ」
 貴族中の貴族がそんな事を言い出すおかしさに、深花はくすりと笑みを漏らす。
 それを見たエルヴァースの顔に、不快の色がよぎった。
「エルヴァース」
 ジュリアスが再び警告すると、少年は慌てて親愛の雰囲気を取り繕う。
「エルヴァース君、ね。そう呼んでいいかしら?」
「呼び捨てで構わないだろ?」
 エルヴァースの顔には平民なんだから大公爵令息の名前には様を付けろという意見がありありと浮かんでいたが、ジュリアスはそれを完璧に無視した。
「俺は深花に呼び捨てさせてるが、文句があるか?」
「……いいえ」
 兄が呼び捨てされている状況で自分を様付けさせるほどの図々しさはないらしく、エルヴァースは渋々と君付けを受け入れた。
「しっかし、なんでまたお前が登城してるんだ?」
 ジュリアスによる弟の躾が済むと、ティトーが口を開いた。
 自分より位は低いが王妃の身内という後ろ盾を持つティトーには、エルヴァースも丁重になる。
「父の遣いでたまたま。用件は済んでましたが中庭にカイタティルマートが降りるのも見ましたし、じきに兄上が駆け付けてくるだろうと思ったら、いてもたってもいられなくて……ここで張ってました」
「兄好きにもほどがあるな」
 呆れるティトーへ、エルヴァースは即座に反駁する。
「あなたには言われたくありません」
「違いない」
 さらりと笑って受け流すと、ティトーはフラウを見た。
 エルヴァースの性分は知っているので、フラウは我関せずといった顔で少し距離を空けた場所に立っている。
 大罪人の孫娘と人身売買の犠牲者が相手では、貴族優先主義のエルヴァースの態度がひどいものになるのは分かりきった事だ。
「フラウ、先に行こう。ジュリアス、親交を温め直しときな」
「おまっ……!」
 焦るジュリアスを置いて、ティトーは歩き出す。
 フラウは二人の顔を見ると気まずそうな表情を浮かべ、ティトーの後を追いかけた。


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