EP.6「おめでと。ホントに、おめでとう」-2
¨こっちにはいつ頃帰ってくるの?¨
「始業式の前日には帰るよ。だから、あんまり長くは帰らないかな」
¨そうだね、短いもんね。あんまりのんびりはできないよね¨
「うん・・・」
¨・・・・・・¨
やっぱり、会話が続かない。
別に学校や他の場所でも話したりはしてるんだけど、¨あの日¨以来距離が出来たみたいな感じだった。
済ませたかどうかを園田や荒谷に聞かれるかと思ったけど、寮は勉強が忙しいし、荒谷の方も予定があるらしくあまり話せなかった。
なので、言いそびれたまま時間だけが過ぎてしまったのだ。
こういうのって自分から言うものなのか分からないから、未だに伝えてない。
まあいっか、向こうから聞いてこないし、それに正直言うと今の俺にとってはそんなに大事な問題じゃない。
高梨さんとの距離をどう縮めるかの方が大事だ。
とは言っても、あまり自分から行動してこなかった俺にはそう簡単に出来そうな事でもなく・・・
「高梨さんはどうやって過ごすの?」
¨私は家族と一緒にかな。特に予定とか無し¨
「そっか、俺もそう」
¨予定も無いのに帰るの?だったらこっちにいなよ¨
くすくす笑いながらつっこんできた。なんだか、笑い声を久々に聞いた気がする。
「本当はそうしたかったけど、どうしても帰ってこいって」
¨いつかそっちに行きたいな。ねえ、春休みになったら行ってもいい?¨
「えっ、春休みに?」
また高梨さんの方から誘ってきた。
いつもこんなでごめん、変に気を遣わせてばっかりだね。
こっちから誘うって気が無い訳じゃないんだ。高梨さんが大体の事は決めちゃうから、俺の方はそれに同意するだけ。
でも良かった、また高梨さんと仲良くなれそうで・・・・・
その明るい声に胸が痛む。
俺がこうして喜んでいる今も、姉ちゃんの事ばかり考えてるから。
高梨さんと初めてああいう事をした日の晩、寮の人気の無い所で姉ちゃんに電話してた。
何をしてるのか自分でも分からなかったんだけど、気が付いたら帰る約束をしていたのだ。
夏休み、誰にも見つからない様に嗅いだ姉ちゃんのパンツ・・・
あの匂いが鼻の奥を昇って脳ミソに染み付いて、離れてくれない。
高梨さんの匂いを嗅いだ後なのに、と思ったが、何故か直接感じたそれよりも、姉ちゃんの方が強烈に記憶に焼き付いていたのだ。