『ZERO外伝』〜エピソード零〜-1
注)これは『ZERO』本編の『外伝』です。本編を読んでいない方は、そちらを先に読むことをお勧めします。尚、この物語は当然フィクションです。(本編の方、書き忘れちまった…)
☆☆☆☆☆☆☆☆☆
ゴオオオオォォォ………
「…いたぞ。2時下方。目標、NEF(北西空輸)輸送機が6」
のそのそと、西へ向かう鈍重な輸送機。
「用心棒は、1、2…おい、4機しかいねぇ。こいつはカモだな」
「手柄の取り合いになるさな」
輸送機6に対して、護衛が4機しかいないのは、彼等には拍子抜けだったらしい。
「油断するな。ロルフ、ゲイル、カトーは、上からやれ。連中がパニクってる所を、残りと俺がやる。いいな?」
列機の6人から、了解の声が上がる。
リーダーらしきこの男。鋭い眼光は、護衛に付く4機の戦闘機を見据えている。狩りをする猛禽の眼だ。
「よし。散開」
全開で、右翼のBf109(※2)3機が上昇する。輸送機と護衛は、まだこっちに気付いてない。
「こ…ら、ロルフ。…敵機、スピット(※1)2、零戦2。零戦…1機は複…座」
エンジンを全開にすると、どうしても通信にノイズが混じる。
「了解。複座以外の3機をやれ。生き残りはこっちが持つ」
「…ヤー(了解)」
ロルフ隊が、敵機上空に到達する。と、同時に急降下。間抜けな護衛機は、まだ気付いていない。
―――どうやら、今日は一瞬で片が付きそうだ。
猛禽の眼の男が、そう考えるのも無理はない。奇襲こそが、空戦の極意。必勝法なのだ。
しかし、3機が射撃を開始すると、同時に護衛機は一気に散開。ロルフ達の弾はかすりもしない。
「くそっ! 気付か…てる!」カトーが毒づく。
そのまま、ロルフ隊が護衛機を素通りして降下。スピット2機が、同時に降下。後ろに付く。
「駄…だ! 後ろに…ギャアア…アァ!!」
「ゲ…グッ……ザザー……」
一瞬でロルフとカトーが火達磨になった。
「…うわっ! ロル…とカトーがやら…た! こいつ等…半端じゃねぇ!!」
猛禽の眼の男が、歯軋りする。スピット2機はそのままゲイルに食いつく。
―――ゲイルは諦めるしかない。
残りの零戦2機が、彼等4機へと向きを変えた。
「注意しろ。敵は手練れだ。複数で当たれ」
「了解…」
「ラジャー」
零戦2機と正対して撃ち合う。…どちらも空振り。
猛禽の眼の男は、すぐさま上昇反転。複座の零戦が付いてゆく。
「こっちは任せろ。3機でやれ」
男の機体は、1機だけFw190(※3)。零戦、しかも複座なんぞ相手ではない。
機体をロールさせて降下。零戦が下を向いた所で、バレルロールをかけてオーバーシュート(※4)させる。
「フン…」
立場は逆転。零戦は右へ急旋回し、男が直後を追う。だが、零戦も機体を上下左右に振って、簡単には撃たせない。
急上昇から反転降下。複座とはいえ、零戦の鋭い機動は、猛禽の眼の男にも食いつかせない。
「小癪なっ。ぐっ―――しまった!!」
複座の零戦の前を横切る、もう一機の零戦………を追いかける3機のBf109。
「上だっ!」
男がそう言った時には、もう遅かった。
弾幕を張るように、複座の零戦が射撃。続けざまに、3機が被弾する。
「ウギ……」
「こち…キース! エンジ…に食らった! もう駄……ザザー……」
「ザザッ…ミラー、キースとリーが…られた! 俺もガタガタだっ…くぁ! ここは引いた方が良い!!」
―――なんて事だ。油断したばかりに…。
一瞬で片が付いたのは、男の予想通りであった。結果は逆であったが…。
護衛機は4機健在。こっちは、カコマレが1機に、被弾機が1。健在は、猛禽の眼の男――ミラーだけだ。
この時、すでに彼の選択肢は、無くなっていた。
「クソッ! 退却だ。クロキ、ゲイル。俺が援護する」
「…了…い…」
「こち…ゲイル! 何とか振り切った。離脱する…」
―――振り切ったわけじゃない。
スピットの2機が、追うのを止めただけなのが、男の鋭い眼には見えていた。
勝者である4機の用心棒は、悠々と引き上げて行った……。