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不確かなセカイ
【ファンタジー その他小説】

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不確かなセカイ-2

1章 原因

 僕には翔太という親友がいた。彼とは長い付き合いで、最初に出会ったのがいつだったのか、それさえもはっきりと思い出せない程幼い頃から、僕たちは毎日の様に時間を共有していた。
 ちょうど今から一ヶ月前のこと。僕は翔太に誘われて入学式以来、約二年以上顔を出していない屋上に足を向けた。風の冷たさが、季節が冬に向かおうとしている事を僕に気付かせる。夕日がその身を隠そうとしていた。何処までも続くオレンジ色の空。どこかで見た写真のように、それは僕の目を惹きつけた。このオレンジのグラデーションは、どこまで広がっているのだろう。僕は目を凝らしたけれど、果ては見えなかった。見えるはずもなかった。その風景はどこか幻想的で、僕は今まで屋上に来なかった事を少し後悔した。校庭には野球部員の姿と彼らの発する声が響いている。僕らは暫く、言葉を交えずにその風景を眺めていた。
「俺、入学式以来だよ、ここ。」
僕がそう言うと、翔太は「そうか」と頷いた。その横顔に、僕は言いえぬ違和感を覚えた。それを無視して、僕は続けた。
「そろそろ進路決めたのか?俺たちも、もう高三だし、決まっているんだろう?」

 彼、古泉翔太は成績優秀で僕と校内一位の座を常に争っていた。けれど性格は両極端で、僕は『努力家』で、彼は『天才』だった。彼に知らないことは無かったし、彼に出来ないことは無かった。勉強など家ではした事が無いと言いながら、それを毎日、数時間欠かさない僕と同等の、いやそれ以上の成績を勝ち取る彼はいつも輝きを放っていた。だから翔太にとって僕は良きライバルであったのだろうが、僕にとってはそうではなかった。彼は僕の目標であり、手が届きそうで届かない、僕より常に一歩前に出た存在だった。そんな彼と、僕はこれからも同じ道を歩んでいきたい、と思っていた。
たとえ、この先ずっと、彼の影に隠れてしまうとしても。

「残念だけど」彼は言った。「大学には行かない。」
「・・・えっ?」
僕は彼の思いもよらない答えに戸惑った。「どうして?」
その問いかけに、彼は校庭に向けていた視線を僕に移した。その目には何かが足りなかった。例えば、自信という彼に最も相応しいものが。さっき感じた違和感の正体は多分それだろう。『天才』という言葉が彼の為に生まれたのだと、僕はそう思っていた。いや、その思いは今も変わっていない。それなのに、今、目の前に佇む青年は、そんな響きには程遠い。
「もう疲れたんだ。」彼は視線を僕の後ろに向けた。「終わりにするよ。」
その視線の先には何も無い、はず。いまや彼の何もかもが頼りない。
「何を言っているんだ、翔太。わけが分からない。」
頬を冷たい雫が伝う。何かが危うい。彼のすぐ向こうでは、ゆっくりと紅い恒星が沈んでいく。まるで劇の終幕を下ろすように。
「だってそうだろう?脇役の僕に何ができる?」
かつての親友は言った。
「何を言ってるんだよ。お前が脇役なものか。いつだってお前は主役だったじゃないか。
これからだってそうだろう、なぁ?」
「違う!」
違う。その言葉だけが、世界にリフレインする。狂ったように頭に響く。でも、その言葉は、果たして僕に対してのものだったのだろうか。初めて目にする悲痛な彼の顔が、そう問い掛ける。
校庭には、部活に励む生徒がいるはずなのに
教室には、居残って世間話をしている生徒がいるはずなのに
喧騒は全く音に成らず、彼の言葉だけが響いた。
このセカイに、僕の胸に、どこまでも、深く。

 最近の彼は目に見えておかしかった。一日中考え事をしているようで、ずっと難しい顔をしていた。ムードメーカーの彼がそんなだから、クラス自体がどんよりとして、今にも雨が降りそうな状況だった。そんな彼が僕を屋上に誘ったのは、何かしらの相談があるからだと思っていた。しかし彼は、自らの問いにすでに答えを見つけていたようだ。


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