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不確かなセカイ
【ファンタジー その他小説】

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不確かなセカイ-11

終章 終幕


 本当に彼は疲れているようだった。少し彼に負担を与えすぎたか。何かを諦めたような顔をしながら、彼は公園を後にした。その足どりはとても頼りなく、無事に家に行き着くのか、少し心配になる。公園に視線を戻すことにしよう。公園には静寂が戻っている。そこには今はもう、翔太が残っているだけである。彼だけは、もうコントロールすることはできない。翔太は全てを知っている。彼はわたしを見ている。彼を見ているわたしを見ている。
「最後くらい、姿を表したら良いんじゃないか?」
彼はそう言った。誰もいない虚空に向けて。その虚空の向こう側にいるわたしに向けて。
「そう、君だよ。そこにいる、君だ。見ているんだろう?このセカイを、外側から。知っているよ。ここは、君が創り上げたセカイなんだろう?」
そう、翔太は全てを知っている。ならば、わたしが姿をみせることに、なんら問題は無い。
こんな事は初めてだが、いつもは見るだけの、わたしが創ったセカイに入ってみることにする。
『わたしのことかい?』
「あぁ、そう、やっと会えたね。いつもそこから見ていたんだろう、僕は知っているよ。こっちからは見えなかったけれど、気配は感じていた。この世界の外側からの視線を、いつも感じていた。」
『どうして、君だけが分かったの?今まで色んな世界を見てきたけれど、わたしに気付いたのは初めてだよ。』
「そうだろうね。だってここは受動的な世界だから、能動の君にこうして話し掛けることは有り得ないことだ。それでも、君が僕を創ったんだ。僕を「天才」として。」
『あぁ、そうか。確かにわたしは君を、全てを見通す人物に仕立て上げたんだ。そうか、これはわたし自身が仕掛けたからくりか。』
「そう、だから僕はこうして、君とも話すことができる。あの日、自らの意思で世界から一歩身を引くことで、君と同じ視線を持つことにしたんだよ。」
わたしにはこの世界の事は、わたしが見た範囲しか分からない。いや、この言い方は正しくない。この世界はわたしが見た範囲しか存在しない。それ以外は「無」だ。ここはわたしに都合のいいように創られた世界。そう、創造主は、今これを目にしているわたし(あなた)自身だ。
『翔太はどうして、そんな事をしたんだ。』
「知りたかったのさ。」
『何を?』
翔太にも知らないことがある。創られた世界の中で、わたしと同じ視点を手に入れるまでに至った彼は、だから創造主のわたしと同等の知識を持っている。何が知らないことがあるのだろうか。
「あなたが、この世界から視線を外したとき、この世界はどうなるのか、それが知りたい。」
翔太はそう言った。確かに、わたしにもそれは分からないし、これからも分かることはないだろう。けれど翔太はそれを知ることができる。
世界の果てを、見ることができる。
それは、とても羨ましいことだ。創られた世界の中で、創ったもの以上の知識を、彼は得ることになる。それも仕方の無いことか、なにせ彼は天才なのだから。
『分かったよ、翔太。わたしは、また別の世界をみることにしよう。』
「これもまた、運命さ。」
彼は笑った。
あぁ、そうなのだろう。
こうなるように、初めから決まっていたのだろう。
こうなるように、初めから決めていたのだろう。

物語はここで終わり。
この物語のエピローグを知ることはできない。できるとすれば、翔太がこちら側に来てくれる時。ただ、それだけは不可能であることを、わたしは知っている。いくら天才だと、わたしが謳っても、それは無理。なぜならそれは創られた天才だから。この世界の枠組みの中でのみ、彼らは生きることが許されているから。

機会があれば、彼らにまた会おう。

機会があれば、ここにまた来よう。

そしてわたしは、最後のページをめくった。





それでは

不確かなセカイよ、サヨウナラ


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