EP.5「な、なんですと?!」-1
あんなにしつこかった残暑ももう遠い昔の事の様に感じる。
あと2ヶ月もすれば今年はもう終わってしまう。
来月には冬休みか。
「お前、今度も帰んの?」
入浴後のリビングで寛いでいると、園田が隣に座った。
4月にはタワシみたいだった短い髪も、今は随分伸びているので乾くのに時間がかかる様だ。
「お前はどうすんだよ」
「やめとくわ。東京まで帰んのしんどいし、こっちは正月の間も開いてるから残るよ」
園田も寮に残るのか。
2年生や3年生も結構残るらしくて、冬休みは大体半分は帰らないと先生が言ってた。
学校の行事や、休みの期間が少ないのでとんぼ返りになってしまうという理由で、こっちで過ごす寮生は多いらしい。
「どうしようかな」
「あれ、帰んのか。香織を置いて」
にやにやしている園田のタオルを奪い取り、遠くに投げた。
よくも毎日そうやって口に出してて飽きないな、まったく。
目黒や荒谷は1ヶ月くらいであまりしつこくいじってくるのを止めたが、このアホは未だに止める気配は無かった。
「他に言うことは無いのか功!このエロメガネ!」
「おや、怒るという事は最近倦怠期ですか?信之介殿」
それは無い。
寧ろ、ここ最近は確実に仲が進展してきている。
なかなか2人で出かける時間が無いのが辛いが、学校で話すだけでも楽しかった。
これから倦怠期が来るなんて考えられない。
「まさか帰らないよな?帰ったら香織が押し掛けてくるぞ」
「・・・帰らねえよ。特にそうする理由も無いからな」
そうだ、俺には家に戻る理由なんて無い。
先月辺りからもうあんまり家族からの電話は無くなってきたし、特に心配はしてないんだろう。
特にあれだけあった姉ちゃんの電話は少なくなった。
かけてみようかなと思ったけど、今までこっちからした事は無かったので、何だか照れ臭くてまだしていない。
それに、あんな姉ちゃんにも用事があるんだろうと思って、結局そのままにしていた。
今年は会わなくても大丈夫かな・・・・・
夏休みにはあんなに会いたかったけど、あの時の狂いそうな感じは、今は無かった。
それより、休みの間は高梨さんと何をするかの方が大事だった。
帰ろうと校門をくぐろうとしたら、荒谷が声を掛けてきた。
走ってきたのか、紅くなった頬で吐き出す息が微かに白い。もう間もなく、冬なんだな。
「お前、冬休みはこっちにいるのか」
「ああ。夏休みと違って、帰ってもすぐまた戻らなくちゃいけないしな」
「そっか。しかし、まさかお前と高梨がくっつくなんてな」
「またそれかよ」
「好きなのは男なのかと本気で考えた俺がアホみてえだったよ。付き合うまで言わねえんだもん、岡山」
夏休み前に聞かれてはぐらかしたのを思い出した。
荒谷をそっちの意味で好きではないので、冗談でもちょっと気持ち悪い。