EP.5「な、なんですと?!」-4
<Midori's Side>
「・・・っくしゅん!!」
電話で喋っている時に急に鼻がむずむずしてきて、思い切りくしゃみしてしまった。
¨だいじょぶ、碧?¨
「あーごめん、何でもない。ちょっと出ちゃっただけ」
¨本当に大丈夫?最近さ、あんまり元気ないみたいだから¨
ついさっきまで馬鹿な話をして大笑いしてたのに、急に真剣な声になった。
「わ、私が?だいじょぶだよ、私から元気取ったら何にも残んないじゃん」
¨そう、だったらいいけど。何かここ最近、時々難しそうな顔してたから¨
そんなつもりは無かったんだけど、周りには伝わってたんだ。
いつかすぐ顔に出るんだよ、と弟から言われたのを思い出す。
「いや、まあ、そろそろ彼氏が欲しいなぁ・・・なんて思ってたり、実は」
¨あーそりゃ深刻だよね。うん、死活問題っての?それそれ。うちら次はもう3年だし、そろそろ欲しいねー¨
電話を持ちながら深く頷くのを繰り返す友達の姿が見えた。
私も、欲しい。
そう周りには言ってた。
でも・・・別に欲しくなんて無い。
ただ今は欲しくなくても構わないだけ。
口ではそう言ってるけど、みんなも今のところはそうかもしれない。
学校が終わった後に友達同士で遊んでる方が楽しいんだ。
¨じゃね、碧¨
「うん、バイバイ」
電話を切ってベッドに背中から飛び込んだ。制服のまま寝転がって天井を見上げる。
もうすぐ今年も終わりか。
今年は家族にとって、今までにない大きな変化があった。
信之介が鹿児島の高校に入学して寮生になり、家を離れたので家族が1人減った。
でも、こっちからよく電話してたから接し方を忘れたりはしてない。
いつも一緒にいて当たり前だと思ってた事を、信之介が離れてから気付いた。
ちっちゃい頃から私は仲良く遊んできたつもりだけど、やたら暴力を振るってきただの、がさつだの、女じゃねえだのと生意気ばかり言いやがって。
苦手なんだよ、女らしくすんのは。
スカートってなんかヒラヒラしてて動きづらいし、走るのに邪魔だから殆ど着た事が無い。
それでもたまにはお洒落してみたくて、小学生の時に一回だけスカートを履いた事がある。
そしたら信之介の野郎、男が女のふりしてるなんて大笑いしやがって・・・
その時は殴り合いの喧嘩になっちゃって、仲良くお父さんに怒られた。
でも、信之介はこないだそれを話したら覚えてなかった。
殴り合いしたのは覚えてたけど、自分が原因を作ったのは記憶から抜けてた。
我が弟ながら都合の良い構造の頭してるよ。