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ZERO
【ファンタジー その他小説】

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ZERO-6

 俺は慎重に翼の『ノルナ』の表示を避けながら後席に潜り込んだ。
「キャノピーを閉めて。頭の後ろにあるから」
彼女に言われた通りに後頭部の辺りに手を伸ばし、窓枠をつかんで前にずらした。
「シートベルト締めないと裏返しにしたときに頭割れるよ」
「それぐらい解るよ……っていうか裏返しにするの!?」
「その方がよく見えるじゃない?」
「まぁそうだけどさ…」
ヘッドホンから聞こえる声は場違いに素っ気ない。彼女は産まれたときから空で育ったのだ。俺とは感覚が違う……。
そうしてる間に機体は滑走路の端までやってきた。狭い滑走路の端でゼロ戦は器用にUターンして機首を反対に向ける。
「準備はいい?」
「あぁ、大丈夫」
「いくよ!」
そう言うと彼女は半分開いていたキャノピーを完全に閉めた。
ゴオオオォォォ……ッガガアアアアアー!!
エンジンは遠慮なしに爆音を上げ始める。それはジェット旅客機などのレベルではない。ヘッドホンをしていても鼓膜が破れそうだ。
ググッと体がシートに押しつけられ、ゼロ戦は地面を走り出した。
後席の俺の目の前にも計器類が並び、スピードメーターの針が徐々に上がりだした。
100…120…140…160に差し掛かったときに、今まで垂れていた尾部がフワッと上がる。機体を水平にして、走るスピードは間もなく200キロ。
その時、今まで尻に感じていた振動がなくなり、翼は空気を捉えた…。
――翔んだ!――

速度は350キロまで上がり、眼下には大地が………大地が…………………大地が無い!?
本当にナイ……。
見えるのは蒼い空と白い雲……と、空に浮かぶ黄金色の島……。
初めてゼロ戦で空を飛んだ感動も忘れ、俺は目の前に突き付けられた現実を前に完全に思考が停止した。
「…ねえっ!ユウタ!飛んだよって言ってるべさ!……聞こえないのかなぁ?」
ヘッドホンに響く都の声も聞こえず、俺はただ抜け殻のように蒼い空に浮かぶ『島』を見ていた……。


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