ZERO-12
カチッ…………カチカチッ………
「あれっ??」
弾が出ない……。
「ばかっ!あぶない!」
「うわっ!」
ギュイイイイン!
スピードが出ていたので危うく体当りするとこだった。
「何で撃たないのさ!」
「弾が出ないんだよっ。詰まっちまった!」
「詰まった!?装填したの?」
「あ……」
うっかりしてた。旧式のゼロ戦は装填レバーを引かなきゃ弾が送られないのだ。
「何やってんのさ!あんた戦闘機乗りだべ!」
「俺が乗ってるヤツはこんな物付いてないよ!」
「後ろっ。つけられるよ!」
運良く窮地を脱した奴はこっちの後ろに回り込もうとしている。
「くそっ、させるか!」
こっちもスロットルをしぼって小回りで右に反転する。
ダダダダダッッ
奴は撃ってくるが全然狙いがついてない。
今度は回り込んだこっちがバックをとる。後ろにつかれまいと奴は機体をひねって下へと逃げた。
Gがかかって操縦桿が重くなる。だがここで諦めたらチャンスはまたあっちに行ってしまう。正念場だ。
右へ左へ逃げ回る奴だが、徐々によれてきて旋回にキレが無くなってきた。照準がだんだん合ってくる。
今度はちゃんと装填レバーを引いて弾を送る。
――よしここだ!
「今よ!!」
パタタタタタタタ……
ダンッ!ダンッ!ダンッ!ダンッ!……
7.7ミリと20ミリの機銃は火をふいた。
飛び出した2種類の弾は煙を後に引きながら敵の機体へ一直線に向かう。
最初の2、3発は外れたが次々とコックピットからエンジンにかけて弾が命中した。
「「よしっ!」」
グラッと傾いた奴は動きが止まり、続けて勢いよく煙と炎が吹き出す。
ドンッ……ゴゴゴ……
小爆発を起こしながら火ダルマになった奴は海へと落ちていった…。
「あ…たった…」
「やったべさ!上出来よ!」
そうか…やったのか、俺が。
「ああぁ…、都さん?こ、殺しちまったのか?」
「えっ?ああそうね。あれじゃ脱出は無理ね…」
「そんな…まさか殺したなんて…」
「仕方ないべさ。あっちだって覚悟を持って空賊やってるんだから」
…覚悟が無かったのは俺だけか。
まあ、撃ったのは俺なんだから無責任な話だ。
「私だって最初はショックだったけど引きずったら駄目さ」
ゴォォォ……
さっき空賊に襲われていた飛行機が寄ってきた。銀色の機体のそこかしこに弾痕がある。俺が見つけるまで随分小突かれたんだろう。
横っ腹には『NEF』の文字。
「あのNEFって何だい?」
「北西空輸。大きな運送屋だよ」
あっちのパイロットが耳を指して何か合図を送っている。
「あっ、無線か」
無線のスイッチを入れると男の声が聞こえてきた。
「…都ちゃんかい?助かったよありがとう」
「ああ、伊丹(イタミ)さん。無事で何よりです」
どうやら都の知り合いらしい。
「めずらしく後ろに誰か乗ってるじゃないか」
「実は私が後ろに乗ってるんです」
そう言うと、都は飛行帽を取って手を振った。
「えっ、じゃあその凄腕は誰だい?」
「凄腕って…そんなんじゃないですよ。俺は羽田っていいます。よろしくどうぞ」
俺もゴーグルを取って挨拶した。
「なんだい都ちゃんにもとうとう彼氏が出来たか」
「そ、そんなんじゃないわよ!こいつはただの風来坊ですっ!」
「まあいいさ。羽田って言ったかな?君イイ腕してるよ」
「はあ、どうも…」
「星は何個目だい?」
…星?
「撃墜数のことよ」
「じゃあ初撃墜がデーモンの餓鬼か…目出たくはないが、とりあえずおめでとう」
「あ、ありがとうございます…」
「で、エースの都ちゃんはいくつになったんだい?」
「いま6つ」
そうか…。やっぱり都さんの肩に付いてたマークは撃墜数だったのか。
しかし、6回以上も空賊と出くわすなんて、都さんツイてないな……。
「小遣い稼ぎのつもりが本格化したんだからな。凄いもんだよ」
「本格化って?」
「あぁ私ね、用心棒ってゆうか、賞金稼ぎもやってるのよ」
「ええっ!?」
また話がややこしくなりそうだ……。