ルラフェン編 その一 フローラ-7
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宿屋に戻ったリョカは、例の不思議な剣をフローラに見せる。本来ならみだりに見せるべき代物ではないが、彼女はルドマンの娘であり、目にしたとしてもそれは遅いか早いかの違いでしかない。
緑を基調とした柄には威嚇をするかのような竜の頭が装飾され、大きな宝石を掴むかのようにはめ込まれている。そしてひんやりとした不思議な空気を醸していた。
「これをお父様に……?」
フローラは剣を手に取ると、柄を握る。
「あ、危ない」
鞘や刀身を持つには申し分ないが、柄を握ると途端に重くなるおかしな仕様。リョカは慌てて支えようとするが、フローラは軽々というほどではないが、すんなりと鞘から抜く。
「あれ?」
リョカは目の前の光景にマヌケな声を上げる。かつてマリアと共に見つけたとき、その剣は不自然なほどの重さを見せ、呪いの仕業かと二人を怯えさせた。けれど、今フローラはその柄を握り、涼しい顔を刀身に写している。
「不思議な剣……。魔力が吸い込まれるというか、とても寒々しい力を帯びていますわ……」
「ねぇ、フローラさん、重くないの?」
「重いですけど、両手なら……」
「そうじゃなくて、持てるの?」
「ええ? ええ、現にこうして……」
「そう、そう……」
リョカは自分のほうがおかしかったのかと頷き、鞘を渡す。
「おいおいどうしたリョカ? 剣をしまってやらないなんて……」
剣の扱いにフローラは慣れておらず、横からシドレーが手を伸ばしてそれをしまう。
「二人とも、その剣、重くないんだ……。僕が握ったときは、普通に扱うなんて無理なぐらい、すごく重かったから……」
「これが? そうは思えんけどな」
シドレーは柄を持ちながらぶんぶんと円を描く。
「そういえば前にお父様が古道具屋からこれと似た雰囲気の鎧を買っておりましたわ。この緑の色がよく似ておりまして、あとこの宝石も……。姉さんならこういうのに詳しいんですけどね……」
「へぇ……」
シドレーはリョカを見ながら笑いを堪えていたが、鈍い彼は気付かない。
「なんでも竜の神様がお空のお城に居たころ、翼の折れた天女様がお空に帰るために探し当てたとか……」
「なんじゃそりゃ。その剣は通行手形か何かなんかい?」
「ええ。そして、もしその伝承が本当なら、この剣もまた、その可能性が高いかと……。なんてね。そんな子供じみた話、退屈ですわよね?」
くすっと笑うフローラ。彼女にとっては同じ伝承でも魔法のほうが興味深いらしい。
「で、これをお父様に渡せばよいのですか? 私が預っても大丈夫ですけど……」
「いえ。これは父さんが僕にするようにって言いましたし、それに父さんがどうしてこの剣を見つけたのか、ルドマンさんに聞いてみたいので、これは僕が渡します」
「そうですか……。わかりました……。それではリョカさん。また明日」
「うん。また明日……? あれ?」
いつの間にか明日もベネットの修行が決定したことに、リョカは自分の主体性の無さを本気で心配し始めていた……。