EP.4「嬉しい事でもあったんだろ」-1
−9月
2学期が始まり、2週間が過ぎた。
こっちは東京より暑く、早くも残暑にやられてしまいそうだ。
夜も暑さは寮の中に居座り、寝ようとする寮生達に嫌がらせしている。
「今夜も暑いぞ!網戸にしても涼しくならないってどういう事だよ?!」
「騒ぐな、園田。余計に暑くなる」
一応消灯時間は過ぎてるんだが、多分どこの部屋でもこんな感じだろう。
節電の為に9月は就寝の際、冷房をつけないというのは事前に知っておきたかったな。
連絡が行き届いて無かったねと笑いながら言った先生を、きっと俺は許さない。
きっと初めてこの洗礼を受けた一年生は辛い思いをするだろう。
ま、これもいい思い出だと思えば・・・・・
「おい船木!」
「・・・・・・」
返事が無い船木を見ると、すでにぐっすり眠っていた。
「こいつ、一番暑さに弱そうな体型のくせに、熟睡だと」
珍しく鼾はかいてない。
今日に限らずここに戻ってからそうなんだけど、暑いと静かに寝るとは変な体質だな。
「・・・園田、そろそろ慣れろよ。もう9月の頭じゃないんだからな」
「うるせぇ岡山!お前、罰として好きな子の名前を言え!」
ああ、めんどくさい。
わりと騒がしくはあるがこういう変な絡み方をする子では無かった。
これも、全て暑さのせいにしなくてはならないのか。
「生憎ですが居ません」
「嘘をつくんじゃない!もうネタはあがってんだぞ!」
「はあ?ネタ?」
「荒谷が言ってたぞ、既に想うやつがいるとな」
いらない事言いやがって、あいつ。
「さあ言え、早く」
「だから、いない」
「まだ白状しないか!岡山信之介!」
「ネタはあがってんだろ?なら、荒谷に聞けよ」
「う・・・ぐ、くそ!意地悪!もう知らない!」
違う、好きな人は姉ちゃんじゃない。
夏休みの間ずっと、姉ちゃんの顔を見るのが辛かった。普通に接してるつもりだったけど、多分姉ちゃんは変に思ってるはずだ。
離れたせいか気持ちは向こうに戻ってた時より軽くなった。
姉ちゃんと一緒に暮らしてると、辛くてどうしても気持ちが重くなっちゃうから・・・
でも、また最近ちょっと辛くなり始めている。
どうしたらこの気持ちを紛らわせる事が出来るんだ?
−それは、言ってみれば只の思い付きだったかもしれない。
でも今の俺が考えに考え抜いた末の行動だった。