EP.4「嬉しい事でもあったんだろ」-8
(・・・あっ)
すると高梨さんもこっちを振り向き、目が合ってしまった。
引きつっている俺をよそに、彼女はにこっと微笑みかけてまた画面に視線を戻す。
今、笑ったよな?
明らかに挙動不審だった俺に対して、確かに笑った。
胸が高鳴って、少しずつ熱くなってきた。高梨さんがついさっき迄よりも更に可愛く見える。
ゆっくり進んでいた気持ちが一気に走り始めて、もう止められないくらい加速していた。
何気ない仕草だったのかもしれないが、胸が締め付けられて苦しい。
ゲームセンターで遊んだ後、最後にプリクラを撮る事にした。
冷房は効いてたけど体を動かしてばかりだったので、揃って汗で顔や髪が濡れていた。
でも実際に撮影してみたら小さくて良く分からなかった。
そして、その後は2人で街を歩く事にした。
「あっついねー」
もう落ち着いたとはいえ、ついさっきまでヒートアップしていた俺達に容赦無く9月の日射しが照りつけてくる。
さっきはゲームをやりながらだったので、あまり顔を見たり話したりする事が出来なかった。
でも今は違う。こんなに近くで、彼女と向き合いながら歩いている。
「ここ、歩いた事ある?」
「んー・・・無いね」
今まで寮の先輩や友達の知り合いに、遊びに連れていって貰った事はあった。
でも、いずれも数駅離れた所ばかりで、ここの街はあまり歩いた事が無かったのだ。
「皆さ、もうちょっと人が多いとこ遊びに行くんだよね。でも私はここも好きだよ」
そう言ってにこっと笑う高梨さん。
だから、俺にここを案内したかったのだろうか。
日曜日の午後らしく沢山の人達が忙しなく歩き回っている。
俺達は、周りにぶつからない様に距離を詰めて歩いた。
さっき、隣で踊ってた時はまだ気が紛れたけど、物凄いドキドキする。
高梨さんはさっきは手を引っ張ってきたが、今は何もしてこなかった。
・・・もしかして、意識してるのかな。
「ねー、見て岡山くん」
高梨さんは店頭に飾ってあったニットの帽子を被って見せてきた。
男物だったけど意外に似合っているのは、服装のおかげだろうか。
「こっちは?」
次はニットとは全然違う、真っ赤な野球帽だった。
これも結構似合っていて、男っぽさが増して見える。