EP.4「嬉しい事でもあったんだろ」-6
「すごいね、こんなに簡単に取れちゃうなんて」
「鍛えてますから」
取る前と同じ様にウィンクしてくる高梨さん。
鍛えてるって事は、それだけ通いつめたという訳か。或いは遊んだとも言う。
「じゃ、じゃあ俺もやってみようかな」
「難しいけど頑張って」
「何がいい?」
「私もクマがいいな。お揃いだし」
ここは男としていいとこを見せなくちゃ。
大丈夫、以前もやった事はあるし、そんなに難しい操作じゃない。気合いでやれば取れる。
お金を入れて深呼吸した。大丈夫、俺はやれば出来るんだからな。
レバーとボタンを操作し、アームがクマの頭を掴んだ。
よし、持ち上がった。ちょっと安定してないけど、大丈夫。取り出し口まで間もなくだ。
さっき以上に固唾を飲んで見守りながら、クマを手に入れられるのを祈った。
「あっ!」
しかし、アームが広がるよりも早く、クマが落っこちてしまった。
なんて事だ・・・くそっ、もう少しだったのに!
「惜しかったね。いいよ、私は。でもやってくれてありがと」
クマが二匹になってれば格好良かったのに・・・・・
ばつが悪かったけど、高梨さんの笑顔で少し気持ちが落ち着いた。
達人みたいにはいかなかったか、やれやれ。
次は中にあったリズムを取るゲームで遊んだ。
「ほっ、はっ、はっ」
これもそつなくこなしていた高梨さん。最初から最後まで全くリズムを崩す事なくやり遂げた。
凄いな、流石鍛えているだけの事はある。
表示された成績を見て、見えないプレッシャーが肩に食い込んでくる気がした。
「よ、よし、今度は俺の番だよね」
「そんなに緊張しなくていいよ、楽しんでやればいいんだから」
「うん、大丈夫」
太鼓のバチを握る手に力が入る。
は、始まった、いくぞ。例えひとつだって失敗する訳にはいかない。
さっきクマのぬいぐるみを取り損ねたんだから、こっちは見事に決めなくちゃ。
曲に合わせて流れてくる丸い記号をドン、ドンと叩く。
最初のうちはまだ少なく間隔も短かったが、演奏が進むに連れて複数の記号が流れてくる。
ここからが勝負だ。
集中しながら一気に叩いていく。
楽しんでいる、というよりは真剣にやっている。いいんだ、これが俺の楽しみ方なんだから。
(あっ?!)
しまった、ひとつ逃した。
完璧にやるつもりだったのに、ちゃんと見てなかったのか?
揺らぎ始めた心を何とか立て直そうとしながら、ゲームを続ける。
その後も力を込めながら記号を叩き続け、演奏が終わる頃には手の平に汗が滲んでいた。
「・・・あっ」
成績は、高梨さんより低い。
やっぱりあの逃したひとつがでかかったのか・・・されどひとつ、大きなひとつとは。