その二 120°-3
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「いったいどうしたの? そんなに慌てて……」
「どうしたもこうしたも……。さっきからなんか見えるのよ。視界の端っこに青白いものが……」
寝巻き姿になった健一に、私は恐怖感を隠さずに全て打ち明けた。彼はそれを聞くと頷き、ソファに座る。
「なんだろう。誰か来たのかな? まさかねぇ……」
「ちょっと、怖いこと言わないでよ。くるなんて、誰がよ?」
「たとえば、親戚のおじさんとか……」
その言葉におばさん達の外出理由を思い出す。確か二人はお葬式に行っていて……。
「お葬式抜け出してきたの? 自分が主役なのに?」
「何もおじさんだけじゃないけどさ……。そうだね、何か寄り付いちゃったのかな? 怖い話をしてたりすると、そういうの呼び込むみたいだしさ……」
「それってさっきの番組とか?」
「かも」
「かもって! 健一が見たいっていうから見たのに、なんで私が迷惑被らないといけないのよ! ふざけないでよ。ああん、もう幽霊さんてば、私じゃなくてこっちの薄ら馬鹿に憑いてくださいよぉ〜」
一体何に願うのか、私は手を合わせて祈る。けど、また視界の端に青白いのが!
「わ、また!」
「本当かい!?」
そしたら薄ら馬鹿、嬉々として私の視線を追うのよ。
「消えた……」
「そう……」
そんでがっくり肩を落とす。まったく不公平な世の中だわ……。
「……」
「……」
しばらく無言のまま震える私と何か考えている健一。何か思いついたのか、ふと私に向き直る。
「ねぇ、その青白いの、もしかして軍服を着ていなかった?」
「え? そういうのはよく……」
「この時期はお盆と終戦記念日だからね。昔の人が帰ってくることが多いんだ」
言われてみればそうかもしれない。さっきのことをよく思いだす私。確か縦に長くて、言われてみると人に見えたかもしれない。
「思い出してごらん? 少しずつ……」
「そういえば……」
「なにか細いものとか?」
「見えた気がする」
「三八式だ」
「サンパチ?」
「日本軍の標準装備の武器のことだよ。他には?」
「えっと……」
「何か頭についてなかった?」
「あったような」
「きっとそうだよ」
「でも、そんなことがわかったからって……」
「多分、僕らがごはんを残したからだよ」
「へ?」
「ほら、夕食のピザ、三切れだけ残っていただろ? 一つは純ちゃん。一つは僕。もう一つは兵隊さん。そう言う風に勘違いしてきちゃったのかもしれないよ。で、僕らが食べようとしないから、純ちゃんの周りではやく食べようってせがんでいたのかもしれないよ」
「なにそれ、腹ペコの幽霊だっていうの?」
「ああ。昔の兵隊さん達は食べるものも禄になくて、飢え死にも多いっていうし、きっとそうだよ」
「うそぉ……」
半信半疑の私だけど、健一は構わずに台所へいくと、電子レンジで温めなおしたピザを持ってきた。
「それじゃ、いただきます……」
「いた……だきます……」
健一はそういってぺろりと食べちゃうけど、十時以降の飲食は気になるお年頃……。だけど、兵隊さんがうろつかれても困るし、ここは一つ、この奇妙な晩餐を終らせるために!
私はベーコンミックスピザを無理やり食べた。正直、味なんて全然わからない。