ポートセルミ編 その二 出会いと別れ-10
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「よいせっと……。まったくかなわんなぁ……。最近変なの多いし、もうここも潮時かいな……」
金色の翼を持つそれは崖に腰を掛けると、持っていた薬草をばりばり齧る。
「あの、貴方……?」
敵意こそ示さぬものの、脅威であるには変わりないと、アルマは警戒しながら話しかける。
「ん? お前……どっかで見たことあるけど、俺のファン?」
「は?」
「冗談やて……。つか、ここはあいつらの家なんやから荒さんといてな。まったく……」
「え? え?」
害意を示さぬ竜に別の意味の混乱を来たすアルマ。ひとまず地面に丸を三つ書いた後、もう一度話しかける。
「あの、貴方、魔物でしょ? カボチ村を荒らすっていう……」
「かぼちゃ? 知らんがな。そんな田舎の村荒らすよか、ポートセルミのねーちゃんたち見てたほうがずっと楽しいわ。つか、俺は魔物じゃないで? 俺にはちゃんとシドレーっつう立派な名前があるんじゃからな」
なははと笑うシドレーに、アルマは目を丸くさせる。
「シドレーって、貴方まさか!?」
「ん? 俺のこと知ってるって、やっぱり俺のファン?」
「アホかい!」
アルマは握りこぶしをシドレーの頭にお見舞いした……。
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「ガロンだね? よかった……。生きていたんだね……」
「ごろろ〜ん……」
リョカはキラーパンサーに歩み寄り、その懐かしい名前を告げる。ガロンはようやく会えた主人に従属の意志を見せようとしたのか、それともたんに甘えたいのか、お腹を見せてごろごろ転がる。
「ふふ……。ガロン……よかった……。ね、君が無事なら彼も無事かな?」
くちさがない同行人を思い出すリョカ。彼らと過ごした幼少の日々、冒険の日々。胸に渡来するのは、熱い気持ちと嗚咽。リョカはガロンのふさふさの毛皮にうずまり、涙していた。
「ふむ……。そのキラーパンサーはお前のか……」
「え? あ、テリーさん……」
いつの間にか追ってきたテリーにリョカは慌てて涙を拭う。テリーは彼には目もくれず、ガロンに近づくと、その頭を撫でる。
ガロンは唸ることはせず、かといって靡くようすもなく、彼を不思議そうに見ていた。
「ふむ、まだ子供だが、強そうだな」
「わかるんですか?」
「目を見ればな……」
「はぁ……」
「ふん。興が冷めたな……」
テリーはもう一度ポンと頭を叩くと、小屋を出る。
「大方あの田舎者どもはこのキラーパンサーを見てあることないことふっかけたんだろう。とんだ時間の無駄だった。行くぞ、ラルゴ……」
テリーはお供の竜を従えると、光を集め、そして、すっと空へと引っ張られるようにして消えていった。
「なんだろう。脱出魔法かな……。あ! そうだ! 僕も出ないと! ねぇ、ガロン、ここから出る方法知らない!?」
「がう?」
言葉は通じるはずもなく、ガロンは首を傾げて泣く。きっと何かの遊びと勘違いしているのだろう、ぐるぐると喉を鳴らしていた。
「おーい、リョカ〜」
すると、テリーと入れ違いで声がして……。
「その声……やっぱり!」
リョカは声の方へと走り……。