初日-1
「じゃあ、カズヤくん、よろしく頼むわね。ユウタも、ちゃんとカズヤくんの言うこと聞くのよ。」
叔母さんはそういい残して旅立った。旅といっても、ばぁちゃんの容態が芳しくないために大人たちが九州に招集されてのものだ。そう長くはなく、一週間の期限つきで俺はこの叔母さん家の主となった。
東京にある大学に通っている俺は夏休みに入ったため、「アンタ、暇でしょ？」と母に詰め寄られて、小学生になるイトコの面倒を一週間みないといけなくなってしまった。急な一週間の休みをバイト先の上司が快く許可してくれたことが幸いだ。同じ大学に通ってる彼女には少し拗ねられたけど、たまには田舎で羽を伸ばすのも悪くない。
ここは綺麗な水の流れる川がある、自然豊かな山村だ。電車も通っていないような、絵に描いたようなド田舎。ここらへんには小学校が１つしかなく、全校生徒が15人しかいないらしい。
「ユウタ、何年生になったんだ？」
「―三年生。」
ここ数年会わないでいる間に、ユウタはすっかり人見知りをする子供になっていた。幼稚園の時に泊まりに来たときは、人懐っこくて俺にもよく懐いていたのに。
ユウタは目が大きく、可愛らしい顔立ちをしている。叔母さんは、ユウタが女の子に間違われないように男の子っぽい服しか着せないのだと言っていたことがある。サラサラの髪の毛は色素が薄く、やがて肩につきそうな程度の長さで、それが余計にユウタを中性的に見せていた。
「なんか、暇だなー。」
「…うん。」
――気まずい。非常に重たい空気が二人の間に流れている。これから一週間、寝食を共にするのだ。せめて普通にしゃべってもらえるようにならねば…
「よし、ユウタ、泳ぎに行くか！」
俺は川に行くことを提案した。家の前の道を下ると、すぐそこに川がある。子供の心を開くのには、自然と戯れるのが効果的だ。
「ひゃー、水、冷てぇな！」 足を水に浸してユウタを振り返る。…反応なしですか、地元っ子だもんな、さすがに川には慣れてるか。
「よしっ、水切りするか！」
俺はそこらへんに落ちていた石を拾い上げて、川に向かって低くスイングした。放られた石は水面を４回跳ねて沈んだ。しばらく見ていたユウタも、石を拾い上げて真似をした。
８回跳ねた。(笑)
「なんだよ、すげぇなユウタ！どうやったんだ？」
「……もっと、平らな石。」
それから、ユウタはぼそぼそしゃべりながら俺に水切りを教えてくれた。
30分ほど夢中で石を投げ続けていたら、汗だくになっていた。
「あちぃな…」
石を投げる手を休めて川の中に歩いて入っていった。しばらくの間ぼぉーっとしてると、背中に冷たい感触を覚えて、水をかけられたのだと分かった。振り返ると、ユウタがいたずらっぽい笑みを浮かべて立っていた。
「冷てっ…やったな！」
俺は全力で応戦した。そのとき、二人の間の見えない壁は取り除かれた。