EP.3「ついてるよ、ここ」-4
「おい、ちょっと出かけんぞ」
しかし階段を上がろうとしたところで姉ちゃんに呼び止められてしまう。
どうして姉ちゃんはいつもこう、弟の都合を考えてくれないんだろうな?
「嫌だよ、暑いし。1人で行ってくれば」
たった今帰ってきたばかりだし、すぐに外出するのは気が乗らなかった。
「いいから、来い」
「ちょ、ちょっと!離せ!」
首の後ろを捕まれてしまい、無理矢理外に引きずり出されてしまった。
冷房の効いた天国から放り出された俺を、容赦なく地獄の日差しが炙ってくる。
「ったく、そうやっていつも勝手なんだから」
「いいだろ、付き合えよ。久々に姉ちゃんと会ったんだし」
「・・・で、何処に行くんだ。こないだの公園じゃないよな」
「ふっふっふっ、それは言わない」
またかよ!
公園の時と同じじゃねえか、ああ馬鹿馬鹿しい。
正直な気持ちを言うと、今の俺は姉ちゃんと2人きりで出掛ける嬉しさより、暑い中を連れ出される辛さの方が勝っていた。
姉ちゃんと久々に会う緊張感は相変わらずのマナーの悪さで、すっかり萎えていた。
この馬鹿姉、俺のドキドキは一体なんだったんだ。向こうに立ち上る陽炎と同じ、揺らいで消えるものだったのか?
もういいや、捕まったら終わりなんだ。好きなだけ振り回して下さいよ、姉上様。
自転車に乗って早速フルスピードな姉ちゃんを、必死に追い掛けていく。
おかげでもう汗ばんでしまったが、顔に当たる風が涼しくて気持ち良かった。
こうやって自転車に乗るのも久々だな。
自分の都合で弟に汗をかかせてるんだから、後で冷たいものでも食わしてくれなきゃ嫌だ。
・・・この姉がやるわけないよな、そんな気の利いた事を。
それどころか逆にこっちが奢らされそうな気がしてならない。
駄目だ、なかなか追い付けない。
何とか見失わない程度には距離を詰めてるけど、背中が遠い。
果たして何が彼女をあそこまで速くさせるんだ。
自転車は力で漕ぐだけじゃスピードが乗らないのか?
ペダルをいくら踏んでも、汗が流れてくるだけだ。
ようやく追い付いたと思ったら姉ちゃんは自転車を停めた。
俺もすぐ近くに駐車して、流れる汗を腕で拭う。
どこに行くのかと思ったらコンビニだった。
「ここかよ?!」
店舗は違うが、家から歩いて5分の所にあるのと同じチェーンのコンビニ。
何でわざわざ遠い方を選んだんだ?
聞こうとしたら姉ちゃんはさっさと入ってしまい、慌てて追い掛ける。
「おい、姉ちゃん。ここに来るつもりだったのか」
「そうだよ」
振り返りもせずさらっと言う。
その横顔は汗が伝っているが、涼しげな返事のせいか暑さを感じていない様に見えた。
姉ちゃんはアイスコーナーに直行し、中から棒アイスの袋を2つ取り出す。