EP.3「ついてるよ、ここ」-3
「うるさい、この男女!」
「何だと、こいつ。生意気なんだよ!」
たったこれだけのやり取りで、接し方を思い出す事が出来た。
姉弟って不思議な関係だな。取り敢えず、姉ちゃんの方からやってくれたから、感謝しとこう。
・・・でもまだドキドキしている。
俺の前にいる姉ちゃんが、姉ちゃんじゃないみたいだ。
おかしいよな、男の格好しかしなかったのに、妙に女らしくなって。
いや、女らしいと決め付ける方がおかしいかな。
ワンピース着てるだけじゃん。ちょっと違う一面を見ただけで、どうかしてる。
今までだってたまに女らしい格好はしてたじゃないか。それがいつだったのかは、思い出せないけれど。
・・・あれ、そうだっけ?
記憶の中の姉ちゃんはいつも俺と同じ様な格好だった様な気がする。
何で曖昧なんだ?
「はいはい、それくらいにしなさい。2人ともお腹空いてるでしょ」
姉ちゃんとじゃれあっていると、母ちゃんがそうめんをたっぷり入れたザルをテーブルに置いた。
つゆは市販のものじゃなくて、醤油に砂糖を加え、具に茄子と玉葱を入れて煮た、母ちゃん特製のめんつゆだった。
見た瞬間、姉ちゃんに会う緊張で忘れていた空腹が目を覚まし、大きな欠伸をした。
俺よりも早く座った姉ちゃんに続いて、テーブルに座る。
「旨そ〜!いただきまーす!」
そうめんをがばがばと自分の器に入れるが、多過ぎてはみ出している。
「あ、出ちゃった。やるよ信之介」
「お、おい!」
平然と出たそれを俺の器に入れた後、姉ちゃんはそうめんを啜り始めた。
「旨〜い!」
ずるずると遠慮なく音を立てて啜っている。
まあ、いっか。咀嚼する音までは出さないから。でも、汚い食い方だな。
寮でこんな事したら先輩にも寮母さんにも躾されるぞ。
「・・・あ」
急に姉ちゃんの箸が止まった。
一体どうしたんだ、何か変なものでも入ってたのか?
¨ぶっ¨
ああ、間違えた。入ってたんじゃなくて、その変なものを出したのか。
「姉ちゃん!」
「しょうがないじゃん、出ちゃったんだもん」
姉ちゃんは顔を顰める俺をよそに、平然と箸を動かし始めた。
・・・姉ちゃんに寮生活は無理だね。
食事が終わり、俺は自分の部屋に戻る事にした。
特にしておきたい用事があるんじゃないけど、久々に見てみたくなったのだ。