EP.3「ついてるよ、ここ」-2
「ここさ、俺の家だよな」
「何言ってんの。大丈夫?」
ちょっと大げさだが、実物大のレプリカに見え無くも無い。
感覚がちょっとおかしくなってるんだろうな。多分すぐ戻るだろうから、心配ではないけど。
そんな事より・・・・中にはきっと姉ちゃんがいる。もし起きてたらどうしよう。
なんて言えばいいんだ?電話じゃ先週も話してたけど、顔を見るのは4ヶ月ぶりだぞ。
「暑いでしょ、入りなさい」
「う、うん」
いつまでも玄関の前で立ってる俺に、母ちゃんが促してきた。
入るしか・・・ないか。
深呼吸をしてから、ドアを開く。
最初に下駄箱に乗った招き猫が目に入った。まだ置いてあったのか、これ。
ここにいた時は何とも思わなかったけど、何故か目についた。
母ちゃんは中に上がると階段に向かった。
もしかして、姉ちゃんを起こすつもりか?待ってくれ、まだ心の準備が出来てない。
そんな俺をよそに母ちゃんは声を張り上げた。
「碧ー、起きなさい。信之介帰ってきたわよー!」
「ちょ、ちょっと母ちゃん、いいよ。まだ・・・」
すると、すぐ近くから姉ちゃんの声がした。
「起きてるよー」
嘘だ、あの姉ちゃんが夏休みのこんな時間に起きてるなんて。
いやいや、大丈夫だ、落ち着くんだ。
姉ちゃんだぞ。前と変わらず接すればいい。
俺は母ちゃんについていく様に声がしたリビングへと向かった。
「よっ、お帰り」
ソファーに頬杖をついて横たわった女の人が、顔だけ俺に向けている。
・・・え?ちょっと待ってくれ。誰、この人?
「こら、返事しろ信之介」
「あっ?!ああ、うん、ただいま」
髪の色も、長さも変わってない。
家にいるからかいつものアップではなく、下ろした髪が胸元に垂れ下がっていた。
でも、こんな服装をした姉ちゃんは初めてだ。
なんか、フリフリしたものが胸元についた黄色いワンピースを着ていて、女の子らしい格好をしている。
いっつも首の伸びたTシャツだとか、地味な色のパーカーだとか、ジーンズやスニーカーくらいしか着てなかったのに・・・
一体どうしたんだ。頭、強く打ったのか?
・・・やばい。顔が見れない。
おかしい。4ヶ月前までは何とも思わなかったのに、どうしちまったんだろう。
姉ちゃん、こないだより可愛くなってる。絶対そうだ。
キッチンの方に移動した母ちゃんをよそに、俺はどうしたらいいか分からずその場で立ち尽くしていた。
そんな俺を見兼ねたのか、姉ちゃんがソファーから起き上がって・・・
「お前、キモいよ」
「いでっ!」
そして、笑いながらデコピンしてきた。
そのお陰か変な気持ちがおさまって、姉ちゃんに言い返す。