ポートセルミ編 その一 アルマ-1
ポートセルミ編 その一 アルマ
波打ち際、石ころ投げて夕暮れ時、リョカはオラクルベリーのカジノに併設されている食堂で夕飯を食べていた。
本来なら今頃、サラボナへの定期船に揺られているはずだったが、久々の時化のせいで船が大幅に遅れているとのこと。暫くの間はオラクルベリーに留まらざるを得なくなり、財布の中身と相談を余儀なくされる。
マリアに預けていたお金のほとんどは修道院に寄付しており、それほど余裕はない。とはいえ足りなくなったとしても、最近の魔物の活発さから用心棒の仕事は選り好みできるほど。急ぐ旅でもないと、それほど心配はなかった。
カジノの煌びやかな様相と、レースを見守る観客達の歓声を背中に、一人侘しく夕食を取るリョカ。少し前まではヘンリーと雑談をしながらで、その前はマリアとロウソクを隔てての慎ましいもの。するととつとつと思い出が蘇る。
かつて父とともにこの街に訪れたときのこと。
赤毛でつり目で勝気な女の子と夜の冒険に出たこと。そして、そこで出会った不思議な生き物。シドレーと名乗っていたけれど、彼は元気だろうか? ガロンともども行方不明のまま、せめて生きていてくれたらと願うのは、父の非業の死を看取ったからかもしれない。
「ちょっと! 今のいかさまでしょ!」
リョカがそんな感傷に浸っていてもここはカジノ。客同士のイザコザは絶えず、今もこうして背後で男女が……。
「おいおいねーちゃん、おいらがいかさましたって証拠がどこにあるんだい? なんなら調べてくれてもいいぜ? ベッドの上で念入りにな」
続いて飛んでくる下卑た野次。
「むしろねーちゃんのが詐欺っぽいよな? ケツの辺りとか、おっぱいの辺りとか、男をだまくらかすには都合がいいぜ? なあ兄弟」
その声に男たちの笑い声が続く。
「な、なんですって! ここまでの侮辱、赦せないわ!」
「お客さん、ここはポーカーテーブルですぜ? 揉め事はポーカー勝負でお願いしますぜ」
「そうだなぁ……、ねーちゃんが勝ったらいかさまでもなんでも認めてやるぜ? 代わりに、負けたらここでストリップショーだな」
「誰がそんなこと……」
「はっ、威勢がいいわりにもう怖気づいたか。ま、さっさと家に帰って旦那のチンポでもしゃぶってるのがいいわな」
そしてまた笑い声。
「なんか賑やかだなぁ……」
リョカはほうれん草のぺペロンチーノを啜りながら騒ぎのほうを見る。もしこれがマリアの前ならきっとお行儀が悪いと叱られ、ヘンリーと一緒ならエマに子供みたいといわれるのだろう。
「またアイツラか……。最近揉め事ばっかり起こすんだよ……」
シェフは髭を弄りながらため息をつく。
「そうなんですか? でも、ここくらい大きいカジノなら用心棒の一人や二人……」
「それが困ったことに、その用心棒がアイツラなのさ」
顎で示すのでよくみると、確かに胸元にオラクルベリーギルドのバッジをつけている。
「これはお気の毒に……」
「ま、係わり合いにならないことだね」
「そうですね……」
リョカは残りのパスタをちゅるりと啜ると、食後の珈琲を飲む。
「上等だわ! あなた達なんて丸裸にしてあげるんだから!」
売り言葉に買い言葉。けれど、そのフレーズでは逆に男達を喜ばせてしまう。
「はっはぁ! そりゃいいや。んじゃ早速勝負と行こうか?」
かくして始まるポーカー勝負。リョカは暇つぶしがてら、光の精霊を集めてその始終を見ていた。