友の名-1
丘の上にある洋館。
それまで見事な晴天だったはずが、そこの上空だけ一天俄かに掻き曇る。
原因は…間違いなく、そこに逗留しているピンク髪の少女であった。
「てへへっ…これで、完成だよ〜☆」
だぶだぶの白衣をあちこち汚した少女が暗い部屋の中で一人ほくそえむ。
「これで…うふふふふふ…」
後に起こる事態への期待に胸を膨らます少女を照らし出す如く、窓の外を一条の稲光が走り抜ける。
「うふふふふふふふ……」
雷鳴の音に負けないように、彼女はいつまでも笑いつづけていた。
「う………」
寝床で汗びっしょりにして男がうめいていた。
何か余程恐ろしい夢でもみているのだろう、端正な表情が恐怖と苦痛に歪んでいる。
「や…やめ、ろ………」
青い髪を乱し、顔を幾度も左右に打ち振った。
と、突然枕下の目覚し時計がじりりりり…と時を告げる。
「う……」
習慣なのだろう、それまでは目覚める気配のなかった男が目をかっと開いた。
「む…?」
残された左眼が忙しく周囲を見渡す。目に入ったものが見慣れた寝室の天井であると把握すると、ようやく大きな安堵の吐息を吐いた。
「ふぅう…やれやれ、またか……」
気だるそうに、むっくりと身を起こす。額に汗が浮き出ていることに気付き彼は左拳で拭った。
「…む。こんな時間か」
まだ激しく自己主張している目覚ましの存在に気がついた男は、いつものように頭頂部に付けられたスイッチを切るべく手を伸ばした。軽く上から掌を叩きつける。
「アイテェッ」
「…………ん?」
…気のせいだろう。
そう思い、男はもう一度スイッチを叩いてみる。
「アイテェッ」
「…………」
もう一度、叩いてみる。今度はやや強く。
「イテエッツッテンダロコンガキャ!」
「………………」
どうやらまだ夢は覚めていないようだ。いや、そのまま悪夢へと延長戦をはじめたのかも知れない。
そう思い、彼はもそもそと布団へもぐりこみなおした。
「オイオイ、ナニ寝床ニモドッテンディベラボウメイ」
……えらく伝法な夢である。
無理矢理に布団を頭まで引き上げた。
体熱で蒸された布団内の空気が再び彼の額に汗を浮き上がらせる。
「トットト起キテリグ様ニ挨拶シテコイッテンデイ」
リグ、という名前を聞いて男はがばと布団を跳ね上げた。
これは夢なんかではない。
いつものように、あの小悪魔がまたぞろ何か余計なことをしでかしたのだ。
「アデデデデ、何シヤガンディ」
何時もより数割方にぎやかになっている目覚ましをがっしと鷲づかみにすると、男は大またで部屋を飛び出していく