友の名-6
現場に数分と経たず到着したサムライは十数体いた武装マシンをあっという間に切り伏せた。
数が多いとはいえ、某国の崩壊によって流出した旧式の粗悪な武装マシン、しかも夜盗崩れを相手に引けを取りはしない。まるで踊りを踊るように片っ端から切り倒し、半数ほどを破壊した時点で残った連中は逃亡した。
「…ふぅ」
盗賊団が尻に帆を掛けて遁走するさまを眺めながら、ケインは額に浮かんだ汗を拭う。
「それにしても…大分今日は楽に戦えたな」
柄にも無くそうケインは思った。
確かに、サムライの主導権は彼にある。
だが、モニターで確認し指示を与える前に距離や武装などのデータを自動で送ってくれる上、彼の死角である左側をなるべくサポートする形でモニターを回してくれたのだ。
「これはリグに礼を言わないとな。それと」
にこっとケインが微笑む。
「お前にも。ありがとう」
一呼吸おいてスピーカーが鳴る。
「…気にするな。当然のことをしたまでだ」
やや早口に聞こえるのは照れているせいだろう。
「…ふっ、ああ」
すでにこの時点でケインはサムライからAIを外すという考えは無くなっていた。いや、いっそのこと半永久的に残しておいて貰うというのはどうだろう。
意外とこういうのも悪くはないかもしれないな。
「それでは、帰るか」
「…ああ」
このときのケインには、帰ったらリグに自分の考えを伝えることしか頭になかった。
そのため、破壊されて自分の足元に転がっていたマシンの銃口が紅く輝いているのに気付かずにいた。
「……」
先に気がついたのはサムライのコンピューターだった。
離陸する為にケインが立ち上げた、回りの状況を確認するセンサーが足元の高い熱源反応を拾ったのである。
反応の大きさからして残りコンマ数秒で発射されるに違いない。
腕を動かす時間もない。
何より…もう、ケインに警告している時間は残されていない。
サムライのコンピューターは、即座にある結論を下した。
「サムライ?!」
突然姿勢を崩したサムライのせいで、ケインの身が椅子から離れ天井に叩きつけれられる。
「ぐっ…」
強烈な痛みに薄れ行く意識の中。ケインは信じられないものを見た。
それまで自分が座っていたはずの座席を、瞬時に光の柱が突き抜けたのだ。
サムライのコンピューターを半分がた巻き込みながら…
「サム…ライ……」
何が起こったのか確認することも出来ずに、ケインは意識を失った。
ぽたぽた、雨が降っている。
ケインは自分の頬に降り注ぐ雫をぼんやりとそう捉えていた。
次第に感覚が蘇ってくる。
雨にぬくもりが篭っている。
うっすらと目を開いていくと、ぼろぼろと涙を流しつづけるリグと目があった。
「ケ…ケインちゃん!」
ようやく意識を取り戻したケインにリグは満身の思いを込めて抱きついた。
「リグ…?」
そのことで完全に覚醒したケインは僅かに身を起こしてみる。
背中に鈍い痛みが走るだけで他には痛む所はない。
余程心配したのだろう、しがみついたままわあわあ泣き続けるリグの背中を優しくとんとんと叩いてやる。
しばらくそうしていながらケインは周囲を見渡し驚いた。
サムライが、先ほど倒した機体の一つに倒れ込んでいる。何より彼を驚愕させたのは、コクピットを貫いている光条痕であった。 恐らく真下から撃たれて、その上に倒れ込んだのだろう。もろに貫通した形になっているが、あれでは乗っていた自分が無傷であったはずが無い。
そう思って自分の身体をもう一度見回してみる。しかし、どこにも怪我は見当たらない。
「どういうことだ…?」
「おお、お目覚めですか坊ちゃま!」
突然セバスが声を掛けた。
サムライの肩にいたセバスは年にそぐわない身軽さで飛び降り、急ぎ足で歩み寄ってくる。
「セバス…これは一体?」
ケインの問いかけにセバスは沈痛な面持ちで口を開いた。
「サムライが…身を呈して坊ちゃまを護ったのです」
「サムライが?」
セバスは深く頷いた。
それから彼が話した内容は、ケインにとって辛いものとなった。
サムライはケインが意識を失った後、残った回路が完全に機能を停止する前にセバスたちに連絡を取った…自分のバックアップを取る余力を回して。
そして、最後になぎ払った光の槍は…AIチップをも呑み込んでいた。