友の名-4
「で、あとはサムライだけなんだな?」
「うん」
頭をさすりさすりリグが頷いている。
傍らにいるセバスの両手には山と詰まれた怪しい回路が乗っていた。
千と下らないに違い在るまい。
「それにしても、よくこれだけ作ったもんですな」
「うんっ、そりゃあ面白そうなことならボクはどんな努力だって」
ばかんっ。
それ以上リグは続けることが出来ず、頭を抑えてその場に蹲った。
「んにっ、痛いよぅケインちゃん〜」
「当たり前だろうが、一体幾つの家具からひっぺがしたと思ってるんだ」
「でも、内臓電池は5時間で切れるからほっとけばいいんだよぅ」
「5時間後まで何も事件を起こさないという保障があればそうするがな」
実際この行動力がもっと他の事に生かされれば良いのに…つくづくケインはそう思う。
何せ、野菜を切ると染みる染みると大騒ぎする包丁やら、吸いっぱなしが嫌で中身を吐き出したがる掃除機など、無茶苦茶なものが数百体もあったのだ。うっとうしいやら仕事が増えるやら、これでは苛つくなというのが無理であろう。
「ともかく、これで終わりだ」
ぐったりした口調で呟き、ケインはコクピットに乗り込んだ。
動力炉のメインスイッチを入れようとしたその時。
「む…お前は誰だ?」
突如勝手に電源の入ったメインコンピューター脇のモニターから声が聞こえてきた。
「まさか…お前はサムライか?」
驚き反面、やはりという感じでケインが呟く。コンピューターはケインの言葉にこう返した。
「人に名前を尋ねるときはまず自分から名を名乗る。そう親に教わらなかったのか?」
この偉そうな物言いにケインはむっとし、リグは飛び跳ね、そしてセバスはぷっと吹き出した。
「何がおかしい!」
セバスの吹き出した音を耳ざとく聞きつけ、ケインが外に向けて怒鳴る。コンピューターのオマケ付きで、綺麗に二つの声がハモった。
「いや、別に…」
あえて答えを述べなかったセバスの代わりにリグが嬉しそうに答えた。
「やったぁ、大成功っ!ケインちゃんのデータを読み込んでるっ☆」
「大成功って、お前なぁ…」
「それにしても、つくづく似ておりますな。まるで兄弟のようですじゃ」
嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ねるリグを見て、ケインは大きく溜め息を吐いた。
何が楽しくて、こんなぞんざいな対応をするマシンを相手にしなければならないのか。
自分のことは棚に上げてケインは頭を抱える。
「ともかく、お前のAIチップを外させてもらうぞ」
ケインの宣言と間髪を入れずサムライが答えた。
「断る」
そして、なんとあろうことか動き出したではないか!速い動きで外界とコクピットの狭間を隔てる隔壁が降りてくる。
「おお、ぼ、ぼっちゃま?!」
「ケインちゃん?!」
驚いたのは二人だけではない。何よりも、コクピットにいるケインが驚いていた。
「な、何をする?!」
「私は誇り高きマシン。そうおいそれと自我を委ねるわけにはいかん」
そう言うと、サムライは背中のブースターを開いた。テイクオフしようというのだ。
「どうするつもりだ?」
素早くそれに気付いたケインの問いかけに、コンピューターは淡々と答える。
サムライが暴れたら家電製品の非ではない。思わず焦るケインだったが、取り越し苦労に終わった。
「…私の努めは力なき民を守ること。であるなら、周囲の警戒を怠るわけにはいかない」
「偵察に向かうつもりか」
「そうだ。私はヒマではないのでな」
専用機として預かっているとはいえ、軍所属の機体を勝手に出動させるのはさすがに問題となる。
だが、ケインは少し考え込んだ後、無線のスイッチを入れた。
「セバス」
「おお、ご無事でしたか坊ちゃま?!AIはどうなりましたか?」
「ハッチを開け」
「は?!」
予想外の返事にセバスが言葉を無くした。
「何を言われておるのですか、まずはAIを外して…」
しかしケインはセバスを遮り、一言だけ残してスイッチを切った。
「良いから言うとおりにしろ」
後はうんともすんとも反応を返さないスピーカーに向けて、セバスははあ、と溜め息を吐いた。
こうなるとケインはてこでも動かない。
「仕方ありませんな、リグ様」
「んにっ?」
きょろっとした目を向けてくるリグにセバスはにこやかな表情で話し掛けた。
「代わりにハッチを開けておいてもらえませんかな?私はこれから軍の方に緊急のパトロール要請があったと伝えてきますので」
前もって手を打っておこうというのだ。セバスの心意気にリグも笑顔で答える。
「うんっ、任せて☆」