「三角形△ワルツ」-1
……ダンッ!
「…っつ!」
呼び鈴を押し、ドアが開いた、と思った途端、引きずりこまれて、あたしは室内の壁に背中を叩きつけられた。
痛いのに、無理矢理部屋に入れられたあたしの姿を、通りを行く人に見られなかったかと心配してしまう。
常に、あたしの頭は冷静であろうとしている。
…特に、この人の前では。
「な、なんなの、凌…」
相模 凌。
リョウ、という名の字が、しのぐ、とも読むが如く、彼はあたしの下でよく頑張っていると思う。
彼は、あたしの4歳下の部下だ。
「珠子さん、…分からないんですか」
あたしは、若狭 珠子。
この夏に28歳になった。
会社ではそれなりの成績を残してきたけど、その評価と共に、"強いオンナ"のレッテルまで付いてきた。
おかげで、去年からあたしの下に配属された彼は、未だに敬語が抜けない。
…彼氏なのに。
「…分からない。
てゆーか、痛いんだけど、どういうことなの」
…分かるワケない。
あたしは、約束通り、週末を彼の家で過ごそうとやって来ただけなのに。
わざわざ雨の中、1時間近くかけて訪ねてきたのに、いきなりなんなの!?
凌は、なぜだか睨みつけてくるけど、こっちだってムカツいてきて、睨み返す。
…でも。
おかしい、あたしの睨みが効かない。
いつもなら萎縮するはずの凌が…
「…はっ、無意識だっつーんですか、"アレ"が。
ったく、サイテーだな、あなたは…」
…ぎりっ
壁に押し付けられたあたしの手首が軋む。
でも、それよりも凌の瞳が…哀しげに見えて。
彼はいつもニコニコしているのに。
「アレって…?
ほんとに分からない。
凌、ちゃんと言ってくれなきゃ…っん!
…んぅっ…ぁふ…」
いきなりの、深ぁいキス。
彼にむさぼり喰われるような…こんなの知らない!
凌じゃないみたい。
…―ちゅるっ、くちゅ…
「…っは、んふっ…」