「三角形△ワルツ」-4
水曜、火曜、と遡るが、全く心当たりが無い。
…どうしよう、分からない。
凌は、何か誤解してるんじゃないのかな。
でも、怖くてそれは言えなかった。
もちろん、暴力を振るわれるとは思っていない。
キスからは、ちゃんと愛情を感じられたから。
しかし今、あたしの足は、手首と同じくベッドの柵に、ネクタイの蛇で固定されてしまったのだ。
下着姿で大の字にされ、四肢が動かせない状態で、あたしは何をされるんだろう…。
「…珠子さん、思い出しました?
そろそろタイムリミットですよ?」
「…っ…」
「…へぇ、まだ知らばっくれるんですか。
まぁ…思い出したところで、許すつもりもないんですけどね」
くっ…、と口の片端だけを上げたその表情は、見たことが無いほど酷薄なものだった。
冷ややかな目で見下ろされると、改めて自分の状況に冷や汗が出る。
しかし凌は、すぐに目を逸らしてベッドを離れて行った。
向かった先はお風呂場のようで、カタンと何かが鳴ったのが聞こえる。
凌が取って来たものは…
「許せないからこそ、罰を与えなきゃですよね。
これなら、今回のお仕置きにぴったりです」
「…なっ…!
まさか…凌…」
それは、電動ヒゲ剃りだった。
お仕置きと言われてそんなモノを見せられれば、何を剃るつもりかなんて、すぐに検討がつく。
でも、冗談じゃない、そんなモンで剃れると思ってるの!?
「…凌っ、待って…!」
さすがに声が震えてしまった。
しかしおかげで、凌の方も耳を傾けてくれそうだ。
情けない声しか出ないことには、変わりないけれど…。
「そんなモノで、駄目…!
あたし、肌弱いの、そんなモノで剃られたら、ボロボロになっちゃう…。
お願いだから、そんなモノ使わないで…!」
不思議そうに、凌は自分の手の中の機械を見つめた。
男って、こんなに女性の体を知らないものなのかしら?
それでなくても、"デリケートゾーン"という言葉があるくらいに、肌の弱い場所なのに…。
「…分かりましたよ、珠子さん。
それじゃあ…
おま○こは、別のモノで剃りましょう」
「っ!?」
安心したのは束の間だった。
新たな恐怖心と、いきなり飛び出した淫語に思考を奪われているうちに、凌は次の行動に移っていた。
私の服を集めている。
と、なぜかそれを部屋の隅の戸棚に入れた。
そして玄関に向かったかと思うと、あたしの靴を持って来て、ビニール袋に入れて、同じく戸棚へ。
あたしの死角でゴソゴソ音がして、何かを持ってるな、と認識したそれは、閉じられた戸棚の鍵だった。