「三角形△ワルツ」-3
「なに、すんの、よっ!
放しなさい!」
「イヤです!
俺に、力で敵うと思ってんですか?
ひっかくなり噛みつくなり、好きに抵抗したらどうです」
「…っ…!」
まだ噛んではいなかったけれど、凌の腕にはもう3本は赤い筋が入っているはずだ。
しかし、男と女の力の差とは、こんなにも大きいものか。
難無く両手をまとめられ、挑発に応えられない。
そして、少し力を緩ませてしまったおかげで、簡単にブラウスもスカートも剥ぎ取られ、あたしはもう、下着の上下だけにされてしまった。
「…凌。
話、聞くから。
なんか悪いことしたんなら、ちゃんと謝るから、あたしが何をしたのか、まず話しなさい」
情けない格好してるのに、つい凌を諭すような口調になってしまう。
でもそれがいけなかったのか…
…しゅるっ
「…やっ、凌!」
開いたままのクローゼットの中で、見慣れたネクタイが何本も蛇のようにくねって積まれている。
男性の首にきちんと結ばっていないと、ネクタイってあんなに気持ち悪いモノなんだ…。
凌は手を伸ばして、その中から2、3本取ると、あたしの手首をそれぞれ、頭上のベッドの柵に縛りつけてしまった。
「なんで…こんなことまで…」
「暴れると、こすれて傷になりますよ、珠子さん。
…わめいてないで、ちょっとは自分が何したか、真剣に思い返したらどうですか」
唖然とするあたしに、凌は冷たくそう言った。
…あたしは、なんだかんだ言って、さっきから本当に深く考えてはいなかった。
だって、深いキスとか、お姫様だっことか、"ちょっと強引なカレシ"とか…オンナとしては浮かれちゃうじゃない?
でも、凌は教える気は無いみたいだ。
今更ながら、あたしはここ数日を振り返ることにした。
…あたしが何をした?
まず、今日。
水曜の夜にメールで決めた、お家デート。
時間は…間違えてないよね。
何かを約束してた覚えも無い。
昨日は…
朝から、金曜だからって浮わついてた後輩の若い女の子を叱った。
お昼は、忙しかったからデスクで独りで食べた。
午後は…チーフ会議。
その後、書類作成とか雑務もろもろ。
残業を少しだけして、仕事は遅いけど真面目な30代後半の先輩だけを残して帰宅。
夕飯は家で、適当に。
じゃあ…木曜は…あ!
同期会があったんだった。
そこで、一年目から仲の良い男の同期と、かなりじっくり話し込んだけど…。
もちろん仕事の話ばかりだったから、やましいことなんて無い。
それに、その晩の凌との電話は、別に変わったところは無かった。
それは昨日も同じで、午後以降は別行動だったけど、凌とのメールの会話は普通だった。