めぐり出会う、薔薇のもとで-4
「ほぉ…」
生垣から出て来た彼の第一声はそれだった。
立ち上がった瞬間のまま動きが固まってるのを見て、ボクはにぱっと笑顔になる。本当に見惚れていて、それを見るだけで案内したかいが有ったって言うもんだ。
「てへへっ。ねっ、すごいっしょ?」
「あ、ああ。これは凄い…」
ボクたちの前に広がる光景…それは、一面の白い薔薇の海だった。
時期が良かったのもあるけど、神様のお膳立てなのか、みんな綺麗に咲き誇ってくれている。本当に、ナイスタイミングだって思う。
その薔薇の華たちが、月に照らされ薄い蒼のヴェールに包まれてる。彼も正直、こんなのが見れるとまで思っていなかったんだろう。端正な顔に感嘆の表情を満面に浮かべていたんだもん。
だけど、見惚れてたのは彼だけじゃない。ホントはボクもこんな時間に来たのは初めてだったからさ、先に垣根を抜けた時はボクまで馬鹿みたいに口を開けっ放しにして見惚れてたんだ。…内緒だよ。
「ここはボクがいつも来る場所なんだ〜」
「…綺麗だな……」
そう、綺麗なのは足元だけじゃあない。
空には…満天の星明り。今にも掴めそうなくらい綺麗な星々が燦然と輝いている。まるで上も下も宝石箱をひっくり返したような感じになっていたんだ。
「だって…お母様が教えてくれた場所だから。綺麗じゃないと…困るもん」
ここはお母様とボクの秘密の場所。昔、お母様が実家から持ってきた苗を大切に育てて出来たのがここだって教えてくれたの。
それからは何か有るたびにお母様にここに連れてきてもらっていた。お母様は丁寧に華の一株一株を育てていた。ボクをいつまでも、自分の代わりに見守る事が出来ますようにって…。
元々身体の強くなかったお母様は数年前に眠るようにして亡くなった。
ボクはみんなの前で泣かなかった。だって、皇女であるものは強く、気高くあれ…そう父様に言われ続けてきたから。
その代わり、ボクはここで泣いたんだ。いつしか、泣き疲れてそのまま眠っちゃった。
それからは…よく、辛い事があったりした時はここに来てた。
「…何か、まずいことでも聞いてしまったかな?」
優しい声を掛けられ、ボクはその時初めて泣いていた事に気付いた。
「うぅん、なんでもないよ…てへへっ」
誤魔化して笑おうとする…けれど、声が震えちゃって、うまくいかない。
そうしたら、彼は無言で膝をついて、ボクの顔を覗き込んだ。
「え…」
ぐっとボクの頤を摘むと、空いた手の人差し指でボクの頬をすっと撫で上げる。涙を拭ってくれたんだ。
「…無理をしなくてもいい。泣きたいなら、好きなだけ泣くんだ。私がつきあってあげるから」
真摯な眼差しでゆっくりと、だけどはっきりした声で言った。その言葉がとてもあったかくて、ボクは…お母様が死んだ日から初めて声を上げて泣いていた。