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めぐり出会う、薔薇のもとで
【ファンタジー その他小説】

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めぐり出会う、薔薇のもとで-1

 昔のある小説家がこんな事を言っていた。
「人は必ず人生において大きな出会いが三度ある。然り、恩師。然り、友人。然り…伴侶」と。
 でも、ボクにはそれは遠い世界の出来事のように思えていた。王族として生を受けた以上、普通の人らしい生き方や出会いは望むべくも無い、と。そう、あの日までは…。

「さすがはリーフグラウウェン皇女ですなぁ」
 …またどこかでおべっかを使うような声がしている。ボクはそれが嫌で絶対にそちらを見ないようにしていたけれど、この世界では通用しない。特に、話題の中心がボクならばなおさらの事。
「皇女、皇女」
 早速御付きの者がボクを呼びつける。このままほっておいておきたい所だけれど、社交界に出て来た以上そんな態度はマナーに反する。仕方なくボクはいつもの、けれどけっして心からのものじゃない笑顔を浮かべて会釈した。
「うふふ、そんな大したことはしていませんわ」
 …ボクって一応外面は良い方だと思う、自分でも。だから相手も、ボクの笑顔を見て我が意を得たりとばかりにまくし立ててきた。
「いやいや。そうは申しても凄い事ですぞ。一国の皇女でありながらもロボット工学・機械工学の博士号を持つなどと」
「そうですとも、それに加えて今度は遺伝子工学まで。素晴らしい才能と言う他は無い」
「全くですな。これでシュタイン公国も実に素晴らしい皇女を得たと言うものだ」
 談笑が沸き起こる。
 ボクは笑顔を貼り付けていたけれど、心の中では泣きたくなっていた。
 博士号を取れたのは皇女なら当たり前。彼らの言葉はそうボクに聞こえる。でも、みんなは知らない。それが努力の末に得た、と言う事を。人の上に立つものとして苦労を表に出す事を許されない、ただそれだけの違いなのに。
 結局、みんなはボクを見てるわけじゃない。
 シュタイン公国の第一皇女、リーフグラウウェン・シュタインヘルツ・ノイバウンテンを見ているに過ぎないんだ。
 退去出来るものならば退去したい。
 でも、それは出来ない。
 この人達はボクを祝いにわざわざあちこちからいらしてくれたのだと父様は仰っていた。さらには、社交界にデビューするお披露目の式典でもある、と。
 だけど…本人は全く祝ってもらいたくなんか無いのに何を祝ってもらう必要があるんだろう?さっきから色んな人がボクの社交界デビューを祝ったり、博士号の取得について賛辞を述べてくるけど、そんなものはボクは望んでいない。
「逃げたいな…」
 ふと、そんな言葉がついて出た。
 そんな大きい言葉じゃなかったけど、でも、ボクの心の中では大きく反響していく。
 側近達に聞かれなかったのは幸いだった。もし、聞かれていたらボクはここで大きく運命を変えられていたことと思う。
 人生において大事な出会いを用意してくれる時、神様って周到にお膳立てをしてくれるんだね、きっと。
 ボクの時もそうだった。
 それまで十重二十重と周りにいた人々が丁度その時、こちらから注意を外していたんだ。
 気付くと側近はみんな準備でてんてこまい。
 ボクの周りで人垣を作っていた人たちはさっきの話題で盛り上がっている。
 そして一番うるさい父様はどこに行ったのか判らないけど今は姿が見えない。
 周囲の喧騒も手伝って、今ならボク一人がいなくなってもすぐには気付かないはず。このチャンスを逃したら、またボクは人だかりに囲まれて人形に戻らなくちゃならない。そう考えたら…悲しくなった。
 だけど、ここでめそめそしてなんかいらんない。ボクは意を決すると、周りの人に気取られないように人の波を縫ってそろそろと歩き出した。目指すは只一点、開かれたバルコニー。


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