EP.2「夏休みっていつ?」-3
「可愛い子とかいねえの?」
急に身を乗り出してきたと思ったら、そっちの話しか。
寮でも別にしない訳じゃ無いが、園田や船木、目黒や他の奴は荒谷程頻繁には話さない。
「知りたいか」
「えっ、いんの?まじで!どんなのがいるんだ」
「残念だけど男子寮なんだよ」
「それを先に言えよっ!」
元から入るつもりは無さそうだけど、これを聞いたからもう絶対に入寮しないだろうな。
何月か思い出せないが編入試験があるらしく、途中からの入寮も受け付けているらしい。
「でもお前、好きな子とかいねえの」
それを聞いた瞬間、頭の中にあの映像の断片が映った。
日常の忙しさの中に押し込めようとしていた、あの記憶が蘇ろうとしている。
忘れようと躍起になる程寧ろその輪郭は鮮明になり、深く意識に焼き付いてしまう。
「お、脈ありだな」
反応したつもりは無いが、どうやら荒谷は異変を感じ取ったらしい。
・・・違う、好きって訳じゃない。寧ろあれは、逆だ。好きだったらするか?あんな真似を。
好きな相手を自慰のネタになんてしない。俺は、おかしいんだ。
「誰だ、教えとけ。こういうのはさっさと吐いた方が楽だぞ」
「・・・遂にばれたか。じゃあ他ならぬお前にだけ教えてやるとしよう」
「うん、うん、誰だ。聞きたい、是非教えろ」
俺は恥ずかしがるふりをしながら荒谷を指差した。
荒谷は、笑いながら俺の両方のこめかみに中指を折り曲げて、ぐりぐりしてきた。
「つまらん誤魔化し方をするなぁぁぁ」
「いでででで、やめろ。本当の事をいってなぜ悪い?」
・・・言えるもんか。
大体、好きかどうか以前に、姉ちゃんだぞ。口にした時点でゲームセットに決まってるだろ。
最初の日曜日に電話して以来、こっちから家にはかけていなかった。
決まってかかってくるのは向こうからだったのだ。
地元の友達よりも頻繁にかかってくるので、正直いうと最近は結構うんざりしている。
もうかけてこなくてもいいよ、って頼んでるのに、母ちゃんも父ちゃんも笑いながらそう言うなと相手にしてくれない。
だが、それよりも困る相手がいる。
姉ちゃんとうまく話せない。
なんだか、初めて姉ちゃんで自慰をして以来、妙に意識してしまうのだ。
今まで姉ちゃんをそんな目で見た事が無かったので、どうにもむず痒くて気まずい。
もし俺の意識を覗かれていたら、おかしくなりそうだ。