夏の夜-後編--5
「じゃあ、後は先輩の家にご挨拶ですか?先輩、このこと初耳だったみたいだし」
「んーと、まあ、いろいろあるのよ。私にしてみれば些細なことなんだけど……」
おねーさんは、なんか言いよどんだようだったので、私はそれ以上はきかなかった。
「智美ちゃんは、ウチ、大丈夫なの?カラオケで潰すって電話したらしいことはハルからきいたけど」
「あー、まー、帰ってから怒られます。私が悪いんだし、仕方ないです」
たっぷりとしかられるな。しばらく夜は外出できないかも。
でも、なんにも悪いことはしてない。
それは、胸を張って言える。
「外出禁止になっても、どうせ、受験だし、ちょうどいいかも」
「そうか、高校生だったね」
「先輩と同じトコ、とか思ったんだけど、先輩、理数系だし全然とどかなくって、A短」
「いいじゃない、そんなの。男はハルだけじゃないし?」
「えー。先輩がいいです」
「ふ……。あのコのなにがそんなに良いかしらねえ」
おねーさんはため息をつきながら、コーヒーのおかわりを注いでくれた。
「おはよ。めし?俺もちょうだい」
テーブルの上のマグとお菓子を見た先輩の起き抜けの一声。
右手で頭を掻きながら左手で毛布を引きずっている。
「あんた……。もうちょっとちゃんとしなさいよ」
頭はぐしゃぐしゃ、シャツもズボンもシワシワ。
服のまま寝てたから仕方ないけど。
「んー」
洗面所に向かう先輩は毛布を引きずったまま歩く。
まるで、ライナスくん。
「ちょっと、ハル。毛布は置きなさいよ」
「んー」
きいているのかいないのかわからないような返事をして、毛布を手放し洗面所に入っていった。
「ねぼけてる。あんな先輩はじめてみた」
「やめるなら今のうちかもよ」
「いーえ。ねぼけた先輩もカワイイです」
おねーさんは頭をふってため息をついた。
「さて。トーストでいいかな?ご飯はちょっと足りなさそうなの。ハルが出てきたら、洗面所で着替えておいで」
「ありがとうございます」
おねーさんに返事をしたらガラリと奥の戸が開いた。
「おはようございます」
「圭さん、もう起きたの?寝てていいのに。ちょっとまって。いまハルが洗面使ってるの。圭さんは智美ちゃんの後ね」
「そんな。私は後でいいですよ」
「気にしないでいいんですよ。僕はまあ、家ではこんな感じですから」
彼氏さんは手ぐして髪を梳かしたけど、ぴんとはねたくせっ毛はなおらず。
服の胸元を掴んでパタパタとスウェットを引っ張った。