悪魔、襲来-4
一方。
「うはははははははははははははは、うははははははははっはあ」
セバスはアクセルをめり込むほどに踏み込ませ、行き交う車や人の目を引き付けながらも高速で走りつづけていた。
そして走る事数十分。
「ふう…」
海岸線に出たセバスは一息つこうと車を止める。
遥か彼方で人々の悲鳴や怒号、パトカーや救急車のサイレンが鳴り響いているがそんなものは気にしない。いつもの事なのだから。
ダッシュボードを開いて中からお気に入りの葉巻を取り出すと、備え付けのシガーカッターで切り飛ばし、ゆったりとした動作でそれに火を点ける。
深く吸い込み煙を肺の奥にまで染み渡らせると、いつもの心地よい軽い陶酔感がセバスを包みこんだ。これこそ、正しく至福の時。紫煙を燻らせると、赤い華が葉巻を染め上げていく。
「フッフフ…」
自分は逃げ切ったのだ…そう、全てから。
思わず口元が喜びに綻ぶ。
「ケインス坊ちゃま…あなたの事は忘れませぬぞ…ふはは、ふははははははは……」
セバスの哄笑が蒼空に吸い込まれていく。
そして…微かにごごごごご…という、遠鳴りの音がそちらの方角から聞こえてくる。
だが、未だに馬鹿笑いを続けている彼には届いていなかった。
セバスがようやく音に気付いた時はすでに手遅れであった。
「ははははは…は…は……は?なんの音でございますかな?」
くるり、と音の向かってくる方角を見るセバスの表情が一瞬にして強張る。
手にしていた葉巻がぽとり、とズボンの上に落ちて焦げを作っていくが、それに気付かないで迫り来る物体を凝視していた。
あんぐりと大きな口を開いているセバスの目に映るもの…それは、操縦者を失った戦闘機であった。
派手な音を従がえ迫り来る凶器にようやく気を取り直し、震える手でイグニッションキーを差し込もうとする…が、手から零れ落ちる。
急いで拾いなおし、再度差し込もうとした時セバスは戦闘機の空になった操縦席に目が釘付けとなった。
ケインの姿が無い…その事実に安堵とも溜め息とも取れる吐息をもらしたその瞬間、戦闘機は頭からリムジンに突っ込んだ。
爆音。閃光。衝撃。
さまざまなものに包まれながらセバスは天高くぶっ飛ばされていた…きらきらしい笑顔を浮かべて。
その日。
天を突く巨大なドクロを象った雲が立ち昇ったのを最後に一連の騒動は(一応の)終息を迎えたのであった。
END