悪魔、襲来-2
手足をしばりつけたイスごと超高空に放り出されている彼にターンしてきた戦闘機が高速で近づいて来る…
「いたいた、ケ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜インちゃんっ!!いっくよ〜」
すれ違いざまなんと爆発したような音と共にコクピットから何かが飛び出してきた。
「ま、まさか…リグか?!」
ケインの予感は確信に変わった。
飛び出したのはヘルメットを被った少女である。
ヘルメットから出た桃色の後ろ髪を風になびかせながら少女は幸せそうな笑みを浮かべている。
「ケ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜インちゃんっ」
「と、飛びこむなよっ?!私は身動きがとれんのだ」
ケインの必死の説明で、リグはようやく手足を縛られている事に気づいた。
「ねえ…ケインちゃん」
「…何だ?」
「…新しいプレイスタイル?」
「……ちっが〜う」
ケインは泣きたくなった。
「冗談だよ〜、セバスちゃんでしょっ?判ってるって〜」
…なら、さっきの妙な間はなんだったんだろう。
そんなケインの思いを余所に二人は高速で落下していた。
「ま、まあそれはさておき今は差し迫った問題を考えよう」
こほん、と咳払いをしてケインが現状を打開すべく問題提起する。
「ん?なぁにぃ〜?」
「…私の状態は、見て判るな?」
「うんっ、身動き取れないぐらい縛られてるねっ?」
「…ああ。で、今我々はどうなってるか判るか?」
「うん、超上空を飛んでるねっ」
…何故この子はこうまで能天気なのだろう……額を抑えたい所だが手が縛られている以上それも出来ない。
「…このままだとどうなるか、判るか?」
「だ〜いじょうぶっ、ボクはパラシュート背負ってるからっ」
……ボクは、というとこにヤケに力が入っていたような気もするがそれは置いておく。
「…私には無いみたいだ…大体、これでは開く事は愚か探す事もできん」
「えっ、そうなの?大丈夫?」
「………大丈夫じゃないから困ってる。出来ればこのイスにしがみついて開いてくれると助かる」
「んっ、おっけおっけ〜。まっかせておいてっ」
…どうやら当面の危機は去ったようだ。巧く近寄りイスにしがみつけたリグにほっと胸を撫で下ろすケインスだったが、(笑いの)神はまだまだ試練を与えたもうた。
「ケ〜〜〜〜〜〜〜〜インちゃんっ」
「…なんだ?」
「あのね、あのね〜…」
もじもじと言いにくそうにする彼女にケインは胸騒ぎを覚えた…が、ともかく抑えて尋ねてみる。
「…なんだ?」
「パラシュートをひらくリングが、固くて引けないや。てへへっ☆」
全身から血の気が引いていく音を、ケインは聞いたような気がした。
「てへへっ、じゃねえええ〜〜〜〜」
熱い叫びが喉をついて出る。
しかしここは百戦錬磨のエースパイロットケイン。慌てず騒がず(…と言うことにしておこう)、状況を把握する。
見ると腕だけは堅いとは言えゴムで固定されている。
それに気づいた時ケインはあるアイディアを思いついた。
「リグ」
「なぁに〜、ケインちゃん」
「私の腕を抑えてるゴム、判るな?それをしっかり掴めるか?」
一瞬きょとんと見つめるリグだが、
「なるほど、これを掴んだままボクが跳ねてケインちゃんが腕を抜く手伝いをすれば良いんだね〜♪」
「そうだ」
理解が早くて助かる。ケインが腕を抜けさえすれば彼女のパラシュートを開けよう。
早速リグはケインの腕輪にしっかり捕まると、彼の腿を踏み台にしてジャンプした。
「くっ、まだ抜けない…むっ?」
腕を抜こうとした彼がふと顔を上げたとき。
眼前にリグのヘルメットのどアップが迫っていた。
瞬間。
まるで肉にボーリング球でも激突したような鈍い音が響く。
「ぐぉっ!リ、リグ…気を…」
しかし不幸にも、彼の哀訴は急速に落下している今風音にかき消され彼女には届いていなかった。
「あっれ〜?かったいな〜、おけっ☆こうなったら出来るまでチャレンジだ〜♪」
「や、やめ…」
―ゴズ!ベキ!!ビシ!!!ズガ!!!ドムドムドム!!!!!―
「グフッ…や、止め…おね…」
しかし不幸にも、(以下略)
「だ〜いじょうぶっ☆ボクに任せておいて、必ず自由にしてあげるから。せ〜のぉっ」
薄れ行く意識の中。
ケインは(もしかしたらこのまま墜落死したほーが幸せかもしれない…)などと思っていた。
「う、うう…」
あまりの痛苦に意識が遠のいていく。