異界幻想 断章-23
「……何するのよ」
「目覚まし。せっかくの休日に、寝ぼけた頭のままじゃもったいないだろ?」
心の内を自覚してから重ねた唇は殊更に甘く柔らかく感じられ、ジュリアスは軽口を叩いて胸の早鳴りをごまかす。
「あー……今日はお休みだったっけ」
深花は、嬉しそうに微笑んだ。
チームの特性上の問題なのか、四人の休日は一緒の事が多いのである。
「……今日は、何か予定あるのか?」
「ん?」
一瞬考え込んだ深花は、首を横に振った。
「基地の中に閉じこもってたら、友達を作る機会はないもんな」
基地内で働く女性の中で深花と一番年が近いのは、フラウだ。
家族寮の方まで足を延ばせば同い年くらいの女もいるだろうが、独身の曹長が用もないのに家族寮まで行くというのは……正直に言って、かなり珍奇な行為である。
かといって年の近い男は深花の階級のために、親しげに接してくれる事はないだろう。
「……なら、一緒に門前町に行かないか?俺も今日は予定がないし、お前一人だとまだ不安だろ」
「え、いいの?」
「悪かったら言わないだろうが。じゃあ、準備が済んだら行くか……黒星も連れてくから、俺の方は少しかかるぞ」
今までの関係からして純粋な親切なのだと思われているようだが、ジュリアスとしてはデートの申し込みである。
承諾してくれて、ほっと一安心という所だ。
「ん。じゃあ準備してくるね」
深花はベッドを出ると、自分の部屋へ戻っていこうとした。
「……」
耳に届いたジュリアスの言葉に、足を止めて振り返る。
「どうした?」
不審そうな表情を浮かべるその顔に視線を張り付けてから、深花は首を振った。
「……何でもない。準備してくるね」
耳の中でこだまするジュリアスの言葉を振り払うと、深花は部屋を出る。
耳に届いた言葉は、自分でも狼狽するほどのショックをもって襲い掛かってきていた。
「愛してる、メナファ」