投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

異界幻想
【ファンタジー 官能小説】

異界幻想の最初へ 異界幻想 104 異界幻想 106 異界幻想の最後へ

異界幻想ゼヴ・ヴェスパーザ-1

 目を覚ました時、隣にいたのはティトーだった。
「あふぅ……」
 大きな欠伸を一つして、深花は眠気覚ましに首を振る。
「何だ、もう朝か」
 寝ぼけた様子など微塵も見せず、ティトーはさっと起き上がる。
「おはよーございます……」
 眠気を覚まそうとしている寝ぼけ顔を見て、ティトーはくすくす笑った。
「君は本当に眠そうだな」
 欠伸している深花が口を閉じる瞬間に、ティトーは指を突っ込む。
「んぐっ!?」
 仰天した深花は、慌てて指を吐き出した。
「目が覚めたろ?」
 くすくす笑いを続けながら、ティトーは深花を押し倒した。
「それとも、こっちの方が目が覚めるかな?」
 そっと、唇が触れ合う。
「ん……!」
 ただ唇を重ねるだけのキスなのだが、体がむずむずしてくる。
「……」
 不意に唇を離したティトーは、少し頬を赤らめていた。
「深花……」
 もう一度、唇が重なる。
 目覚ましという名のじゃれあいではなく、はっきりと目的を持ったキスだ。
「は……ん……」
 ティトーの指がそっと体をなぞり始めた、その時。
 勢いよく、寝室のドアが開いた。
「ティトー!」
 殴り込みをかけてきたのは、ジュリアスである。
 ベッドの中で折り重なっている二人を見て、一瞬顔を歪める。
「……重大ニュースだ」
 ベッドの近くまで来ると、ジュリアスは手に持っていた羊皮紙をティトーの眼前に突き付けた。
「……?」
 深花の上からどき、羊皮紙に目を走らせたティトーは……顔色を変える。
「……深花」
 羊皮紙を握り潰しながら、ティトーは言った。
「王都まで飛ぶ。力を貸してくれ」
 これほど怒っているティトーを、深花は初めて見た。
「はい」
 羊皮紙の内容は分からないが、ティトーを激怒させるというだけでろくでもないニュースだというのは想像がつく。
「俺達も後から追い掛ける。ティトーの事、頼んだぞ」
「うん」
 二人が慌ただしく部屋を出ていってから、ジュリアスは憂鬱そうな顔で羊皮紙をもう一枚取り出した。
 そこに書いてあるニュースを見ると、気が重くなる。
「あいつ……何やってんだ」


 カイタティルマートが王城の中庭に降り立った事で、二人は余計な注目を浴びる羽目に陥った。
 早足で城内を進むティトーに合わせる深花の歩調は、小走りというより駆け足に近い。
 ティトーがどこを目指しているのか、深花には皆目見当がつかなかった。
 やがてティトーは、贅を尽くした王城の中でも飛び切り贅沢なドアを開ける。
 最初は、控えの間とでも言うのだろうか。
 ちょっとしたスペースに、生け花を入れた巨大な壺とそれを支えるテーブルが置かれた空間だった。
 そこから廊下を歩き、突き当たりにはまた頑丈そうなドアがある。
 ティトーは遠慮なく、そのドアを開け放った。
 今度は、居間である。
 火の気のない暖炉の近くに八人掛けのテーブルと椅子、少し離れた場所にはソファとフットレストが二脚ずつにカウチが一つと、繊細かつ豪奢な細工の施された家具が並ぶ。
 入って左側の壁にはドアが二つあり、おそらくは寝室と書斎か何かに通じているのだろう。
「……いないか」
 ティトーはそう吐き捨てると深花をソファに座らせ、一方のドアの中を覗いた。
 部屋の中を一瞥したティトーは、もう一方のドアを開ける。


異界幻想の最初へ 異界幻想 104 異界幻想 106 異界幻想の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前